最後の遊戯
文明の発達した世界で、人類が行う遊びとは……
「今日こそやってみせるぜ」
「諦めなよ、源太、痛いだけだよ」
退屈というのは実に怖いものであって何でも賭け台に乗せる。
「それより源太、先週の払いがまだだって」
「忘れちまったなあ、何だったか」
この男がギャンブルに関して忘れる筈が無いが。
「源太、お前の命だよ」
「ああそうだった、そうだった、利息はトイチか?」
「割賦は無し、徳ちゃんへの支払いが残ったままだろ」
「分かったよ、こうしよう、俺が今から死ぬ」
相も変わらず狡賢い提案であるが、受け入れざるを得ない。ここは損を切るに限る。
月が綺麗な夜だ。地上千二百メートルのタワーのてっぺんに上ると、源太は鼻をすすった。
「昔、花札ってものがあったらしいなあ、何でも熱を上げると気狂いと呼ばれたらしいぜ」
「そんな言葉を使うなよ、お里が知れる、依存症と言って立派な患いだ、お前と同じでな」
へへ、と丸っこく田舎臭い鼻を鳴らし、源太は飛び降りた。
――肉片はバケツ五杯にもなり、回収に三日三晩を要した。
私はいつものように見舞を持って、病院へ向かった。
二十分程の手術を終えて、三分間チューブに繋がれた後、源太は目を覚ました。
「ああ、痛い痛い、死に掛けた」
「痛そうだ」
「だがそれがいい」
「ブラザー」
病院を出ると、源太はポケットのコインを宙に投げた。
「どうだい、玲、今日も賭けをしようじゃないか」
「いいよ、何を賭ける」
「決まっている、命だ、そしてお代目は」
「それも決まっているね」私は言った。
「明日、お前が死ねるかだ」
医療の発達した現代で死ねなくなった私達は、命を賭けて遊ぶのだ。