花車
多種多様な色の花々。
それは時に昆虫や動物だけでなく人間をも魅了する。
現に李周は、目の前に咲いている数多の花に魅了されていた。
闘技場での闘いからすでに三日が経過しているが、護衛任務まで二日程の時間がまだ残されている。
せっかくだ、お世話になった親方にお礼でもしてから任務に出よう。
そう考えた李周は街へと買い物に向かうが、花に魅了され歩を止めていると言う訳だ。
「俺の住んでた所にはこんなに綺麗な花はなかったな・・・・・・。これは一体なんて花なんだろうな」
そう一人で呟いていると、その独り言に反応する者がいた。
「・・・・・・これはハナグルマ」
花を見始めた頃、周りには誰もいなかった筈だ。
その筈がすぐ近くから声がする。
李周は急な出来事に驚き、慌てふためいた。
声のする方へと顔を向けるとそこには色白の長い白髪の女の子がいた。
「・・・・・・君、いつの間にここに?」
そう李周が彼女に尋ねると、彼女は悪戯な笑みで答える。
「ついさっき。お花に夢中で全然気づいてなかった。お花、好きなの?」
質問を質問で返されてしまった。
それにしても不思議な雰囲気な子だ。
見た感じで言うと自分よりも歳下な感じはするのだが、なにか達観している様な異質な感じがする。
「好きって訳じゃないんだけどな。俺が住んでた所にはこんな綺麗な花咲いてなかったから。好きってよりも気に入った!って感じかな?」
「そうなんだ。なんだか嬉しいな。この花、私が育ててるの。もしよかったら少し持って行ってもいいよ」
思いもよらぬ提案だった。
だが、花を持って帰っても二日後には任務に出なければならない。
どのみち枯らしてしまうだけだ。
親方へのプレゼントにでもどうかと考えもしたが、男が男に花をプレゼントするってのもどうかと思う。
ーー桃花。
次に思い浮かんだのが桃花だった。
桃花は今回の一件で自分の為に大分動いてくれた。
その礼に花なんて丁度いいんじゃないだろうか。
「いいのか?それなら一輪頂いてもいいかな?」
「いいよ。何色にする?」
・・・・・・色か。
パッと見ただけでも五色近い色がある。
なんでもいいと言ってしまえばそれで済む話だが、せっかく頂くと言うのにその様な言い方は失礼極まりないだろう。
悩んでいると彼女と目が合う。
白い肌、白い髪。
まるで吸い込まれそうだ・・・・・・。
「・・・・・・白」
気づいたら口にしていた。
「白ね。今のあなたにはぴったりだと思う」
そういうと彼女はしゃがんで白い花とピンクの花を一輪ずつ丁寧にむしり取ると李周に渡す。
「え?二輪もいいのかい?」
李周が花を受け取ると強い風が吹いた。
そのあまりの風の強さに目を塞ぎ、次に目を開いた時には彼女の姿はそこになかった。
「なんだよ。礼も言ってないのにな」
彼は大切そうに花を持ちながら、親方への贈り物を買う為に街へと再び歩を進める。
するとまた強風が吹き、風に乗って声が聞こえた様な気がした。
「もう立ち止まっては駄目。どんな事があっても希望を持ち続けて・・・・・・。あなたの穢れなき心ならそれが出来る筈だから」
先程まで目の前にいた彼女の声と似ていた。
だが顔を思い出そうとしても全く思い出せないし、今となっては声すらも思い出せない。
まるで夢の中にいたかの様な感覚だ。
それじゃこの花も自分で引っこ抜いたのか?!
そう思い慌てふためく李周だが抜いてしまったものはどうしようもない。
花は桃花へプレゼントするとして、再び街へと向かっていくのであった。
こんにちはまいちかです。
閲覧ありがとうございます。
今回から章が変わると言う事でちょっと不思議な感じのお話にしてみました。
箸休めだと思ってください。




