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腕試し

 砂埃の巻き上がる中、ゴーグルをつけていなければ目も開けていられない様な作業環境で、李周りしゅうは自分の身の丈程はあるだろう木材を運んでいた。


 「李周ー!休憩だー!」


 李周が住み込みで仕事を始めて二ヶ月が経つ。

要領のいい李周は順調に学費を稼いでいるが今のペースではまだまだ全然足りない。


 「親方ー!まだ働けますよー!もうちょっと作業進めてから休憩します!」


 彼はそう言うと、木材をもう一つ脇に挟み込み同時に二つの木材を運ぼうとする。

が、そんな彼に愛を込めた拳骨が飛んでくる。

そして一喝。


 「馬鹿野郎!俺が休憩っていったら休憩なんだよ!」

 「そうはいってもまだまだ学費には全然足りませんから、もっと働かせて下さいよ」

 「駄目だ!身体壊しちまったら元も子もないぞ」


 そう言われてしまっては何も言い返せない。

李周は渋々ではあるが休憩を始めた。




 一方その頃、桃花とうかは頭を抱えていた。

李周の働きぶりは凄まじく周りの労働者の三倍は稼いでるらしい。

だが、それでも学費を賄う額には届かない。

自分から李周に提案した手前、躍起やっきになって彼に与えるべき仕事を模索していた。

そんな折、自室の扉を三回ノックする音がする。


 「どうぞー。って、パパ!?」


 扉を開けて自室へと入ってきたのは彼女の父親である曹馮そうひょうであった。

曹馮は陰と陽を結ぶ外交官をしており滅多に家に帰る事はない。

彼女としては再会を喜びたいところではあるが、そういう気分でもなかった。


 「李周君の事で悩んでるのかい?」


 さすが父親、とでもいった所であろう。

桃花の考えていることなど彼には全てお見通しだったのだ。


 「彼の働きぶりは凄いよ。周りの人間の四倍も五倍も働くらしいんだ。行は使えないって話だが、その分、大人たちよりも力はある。自衛の為かね?相当鍛えていたみたいだな。」

 

 李周の良い評判を聞いて彼女は内心とても嬉しかったが、喜んではいられない。


 「・・・・・・そうみたいね。でもね、それでも学費には全然届かないのよ。何か他の仕事を探してはいるんだけど、これ以上仕事を与えたら李周が壊れてしまうわ」

 「あぁ、桃花がその事について悩んでいる事はお母さんから聞いてるよ。そこで一つ提案があるんだが聞いてくれるかね?」




 十八時。今日の仕事を終えた李周は寮へと戻っていた。

親方から頂いた筍を片手に今日の晩御飯の事について考えていると、寮の自室の扉の前に誰かの人影を見つける。

恐る恐る近づき、その人影の正体を確認する。

 

 「桃花?」


 そこにいたのは桃花だった。

桃花が李周の前に姿を現す時は、決まって新しい仕事を斡旋あっせんしてくれる時だ。


 「いつも悪いな・・・・・・。新しい仕事、見つかったのか?」

 「うん、見つかったよ。パ、お父さんが探してきてくれたの」

 「桃花のお父さんが?なんだか頭が上がらないな」

 「今回の仕事ね、成功すれば三年分の学費くらいお釣りがくるレベルで稼げるわよ」

 「本当か?!ぜひ、その仕事を紹介してくれ!」


 李周の圧に押される桃花ではあったがここで不安そうにしてしまえばそれは彼にも伝染してしまうだろう。

毅然きぜんとした態度で彼女は話しを続ける。


 「外交官をしている私のお父さんが持ってきてくれた仕事・・・・・・。普通の仕事じゃないわ。」

 「構わないさ!どんな仕事であろうと絶対に成功させてみせる!」


 桃花は彼の熱い志に押され、たじろぎながらもその仕事の内容を口にする。


 「陰の国の姫様の護衛よ」




 次の日、李周が親方に別れを告げ向かった場所は闘技場だった。

 時は昨日の桃花との会話までさかのぼる。


 「陰の国の姫の護衛だって?行も使えない俺にそんな事できる訳ないだろ!」

 「今回の護衛に行は必要ないのよ」

 「どういうことだ?」

 

 護衛に行が必要ない?

李周は困惑していた。

行が使えないが故に仕事を制限されていた彼にとって、その言葉の真意が理解できないでいる。

 

 「陰邪は陽の国のものしか襲わないのよ。それに極力、陰邪の生息数が少ない道を選んで進んでいくつもりではあるわ」

 「それじゃ護衛なんていらないんじゃないか?」

 「陰と陽は一応、敵対関係にあるのよ。私たちの世代で陰の国の者を悪く思う人は極端に少ないけれど、年配者はそうではない。というか陰を悪だと考える思想を持つ者は結構いるのよ。そいつらから姫様を守るのがあなたの仕事ってわけ」

 

 話は大方理解できた。

だが、そうだとしても疑問が一つ残るのだ。


 「・・・・・・そいつらが行を使ってきたら俺なんかじゃ太刀打ち出来ないぜ?」

 「それなら心配ないよ。一応、行を人間に対して使う事は法律によって禁止されているわ。といっても平気で使う人はいるけれど陰の国の者へ使うとなれば間違いなく戦争に発展するでしょうし問題ないと思うわ。それにもし、陰邪に襲われても大丈夫な様に行のプロフェッショナルを一人同行させるつもりではあるからね」


 陰と陽の小競り合いはおよそ二十年近く前までは頻繁に起きていた。

そこで両国ともに外交官を置き、調停を行なっている。

その際に出来た法の一つが「対人での行の使用の禁止」であり、これが破られる様な事があれば戦争もやぶさかではないだろう。

 

 「そうか。それなら是非その仕事を受けたい所だが、本当に俺なんかでいいのか?他に適任がいるだろうよ。少し荷が重いぜ」


 いくら行のプロフェッショナルを同行させるとしてもだ。

他国の姫の護衛など、自分に劣等感を抱えている彼にとっては当然荷が重い。


 「さっき言ったけど陰の人間を嫌っている人間は多いからね、誰も引き受けてくれないのよ。それに陰の国の姫なんだけど十三歳で年齢が私達が近いみたいだから打ち解けやすいんじゃないかな?」

 「そうか?それならその話し引き受けたい」

 「あ、だけどね。一つ条件があるの」

 「条件?」

  

 いくら他に適任者がいないとはいえ、なにも実績のない十二歳の少年に任せられる仕事でないのは事実である。

本来なら他国の姫の護衛など、名の知れた警固番役けいごばんやくが任命される仕事であろう。

それを李周が引き受けるとなれば陽の政府、ないしは陰の政府より条件を出されるのは必然である。


 「闘技場で優勝して力を示して欲しいの。それがお父さんが提示してきた条件。噂じゃ大分いい腕っぷししてるみたいじゃない?李周なら余裕だよ」




 李周は闘技場の前で尻込みしていた。

周りの民家は皆、いつ壊れてもおかしくない様な造りをしているが、この闘技場だけは歴史の教科書の中から飛び出してきた様に綺麗で豪華な造りをしている。

それ程までにこの闘技場は手入れをされている訳であり、手入れをされていると言う事はそれだけ利用されているという事でもある

つまり、相当な猛者が集まる場なのだ。

だがいつまでも尻込みばかりしている訳にはいかない。


 「さて、腕試しといきますか!」



 


 こんにちは、まいちかです。

今回も閲覧ありがとうございます。

少しづつですがバトル漫画っぽくなってきましたね。

漫画ではないですけど・・・・・・。

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