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決断

 李周りしゅうは決断を迫られていた。

やはり胡劉こりゅうの言う通り、ぎょうを使わずにこの世界を生きていくのは不可能と言っても過言ではない。

だが、家庭環境をかんがみても老婆に進学費を出して貰う事は厳しいだろう。

タイムリミットは後半年程・・・・・・。

この半年で学費を工面しなければいけないと考えると、やはり今長考している時間すら勿体無い。


 「どうすればいいんだ、俺は・・・・・・」


 老婆と朱孔しゅこうは山に動物狩りに出ており、李周は家事全般を任されていたが大方やるべき事はすんでいる。

暗い家の中で一人で考えていても気が滅入るだけだと思った李周は、外の空気を吸うべく近くの公園へと足を運ぶのだった。

公園といっても皆が思い浮かべる様な遊具があるわけでは無い。

ただ整地された土地の中に木製のベンチが二つ置かれているだけだ。

この公園にはめったに人は来ない。

人が来る時なんてのは年に一度の豊穣祭の時くらいだろう。


 「ここなら外の空気を吸いながら一人で思いふけられるな」

 「ん?李周?」


 そこにはまさかの先客がいたのであった。


 「桃花とうかか。こんな所で一体なにをしてるんだ?」

 「それはこっちの台詞よ?」

 「ははは。そうだな、お互い様だ」


 桃花の顔を見ると何故だか少しホッとする。

彼女は行が使えない自分と朱孔を比べない。

自分の今の気持ちを伝えても、顔色一つ変えずに真剣に話を聞いてくれるだろう。

なにより李周は、もう一人で答えを出す事が出来る程の精神状況ではなかったのだ。


 「桃花。お前に相談したい事があるんだ」




 彼は桃花に心の丈を述べた。

李周は彼女に拒絶されてしまう様な、そんな気がして桃花の顔を見る事が出来ない。

彼にとって彼女は親友とも呼べるだろう、心の支えになってくれている存在だ。


 「私も李周は進学した方がいいと思うな」


 返ってきた答えは李周の期待していた答えだった。

李周は顔を上げ、桃花の表情を伺う。

吸い込まれる様な綺麗で純粋な、それでいて真剣な瞳をしていた。


 「ありがとう、桃花。でもうちには金がないんだ。ここ一帯の集落で金持ってるのなんてお前んちくらいだろう?どうすればいいか困ってるんだ」

 

 桃花の家はここらでは結構有名な名家であり、父親が一代で財を築いた事からも周りから慕われている。

自分とは大違いだ。


 「それならうちで仕事を探してあげよっか?李周でも働けて尚且つ安全で金払いのいい奴!」


 思いがけない提案だった。

すぐにでもその誘いに乗りたい。

だが、行も使えない十二歳の少年にできる仕事など、この世にあるのだろうか。

自分のせいで桃花に迷惑を掛けてしまうかもしれない。

彼はここでも決断に迫られていたが、背に腹は変えられなかった。


 「すまない桃花。恩に着るよ」


 李周は初めて人前で涙を流した。

そんな彼を、少しひんやりとした冷たい手が包み込む。

ただ、何も言わずに彼が落ち着くまでずっと、冷たい手が温かくなっても。




 「婆ちゃん。俺、初級中学の推薦を貰ったよ」


 ついに彼は老婆に自分の口から進学の話を切り出した。

老婆は表面には出さないが、心の底では李周には進学を諦めて欲しいと考えていた。

生活面や金銭面であったりと理由は色々あった。

だか李周に対してそれを伝える事が出来ないでいる。

何故なら李周の隣には朱孔がいるのだ。

老婆は昨日、朱孔に対して進学を後押しする言葉を掛けてしまっていたからである。

口籠る老婆を尻目に李周は話を続ける。


 「俺さ、仕事するよ。座学に関してはこれ以上小学校で学ぶことはないんだ。」


 その言葉を聞いて老婆は怒りにも近い感情をあらわにする。

それは李周が嫌いだからという訳ではなく、考えが浅はかな李周に対する僅かな親心だろう。


 「あなたみたいな年はもいかぬ子供が一人で何ができるって言うんだい!」

 「桃花が仕事を斡旋あっせんしてくれるみたいなんだ」


 陰陽外交官いんようがいこうかんの女狐め・・・・・・。

老婆はこれ以上、李周に対してなにも言えなくなってしまった。

それ程までに桃花の一族の力は凄まじく、少し名前を出すだけでもこれだ。


 「明日から半年、住み込みで働くことになると思うんだ。進学したら学生寮に住むことになると思うし、ここには暫く帰って来れない。婆ちゃん、ごめん。ありがとう」


 老婆が何も言えないのをいい事に自分の言いたい事だけ残し、彼はその場を後にし自室へと戻る。

李周が自室へと帰る背中を見つめていた朱孔だったが、少し気まずくなり李周の後を追う様に彼も自室へと戻っていく。

そんな二人の背中を老婆は見届けていた。


 「なによ・・・・・・。少しくらい私を頼ろうとは思わないのかしら」


 老婆は少しだけ悲しそうに、そうぽつりと小さな声でささやいた。

能天気な朱孔に老婆の言葉は届かなかった、と言うより聞こえてすらないだろう。

しかし李周にはしっかりと届いていた。

彼は布団の中で一人、弟に気づかれない様に涙を流した。

 



 

 



 こんにちは、まいちかです。

今回も閲覧ありがとうございます。

自分の中では少しづつ話を進めているつもりですが少し進展が早いかな?と思う節もあります。

早く話を進めたくなってしまう気持ち分かります?

そんな状態です。

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