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陰陽五行

 ーー陰陽五行いんようごぎょう


 この世界で生き残るには五行の力は必要不可欠となっている。

もくこんすいからなる元素をその性質を理解する事により、超能力かの様に使用する事が出来る。

この行為を「ぎょう」と呼ぶ。

基本的には生まれた時点で使える元素は決まっており、それが遺伝なのか血液型なのか、それとも性格によるものなのかは未だ判明されていない。

そして李周りしゅうはこの「行」が苦手なのだ。


 「ギャオオォォオオオー!!!」


 目の前で紫色のプテラノドンの様な生き物が、咆哮をあげつつ此方こちらに向かって来ている。

この生き物は陽の国では陰邪いんじゃと呼ばれており、陰の国から送り込まれた生物兵器だと言っている者もいるくらいだ。

この生き物達は干支の生物と酷似しておりどこにでも生息している為、陰邪と渡り合う為には「行」が必要不可欠となってくる訳だが・・・・・・。


 「逃げて!兄ちゃーん!」


 朱孔しゅこうが悲鳴に近い絶叫をあげる。

それもその筈、李周は「行」が使えないのだ。




 時はさかのぼり、十五分程前になる。

胡劉こりゅうは李周が「行」を苦手としている事を見抜いていた。

しかし、心を読める胡劉ですら李周が「行」を全く使う事ができないなどと考えていなかった。

「行」はそれ程までに生活において必要不可欠であり、胡劉は今まで「行」を使えぬ人間を見た事がなければ聞いたこともなかった。

だから胡劉としてみたら軽い意地悪のつもりだったのだ。

近くに一体、陰邪の気配を感知していた彼女は生徒達を校庭に集め陰邪を挑発したのだ。

しかも李周に怒りの咆哮が向かうように・・・・・・。



 そして今、李周が襲われているという訳だ。


 「李周君!なぜ行を使わないのです!?」


 慌てふためく胡劉を見て、命が危険に晒されているというのに案外冷静にほくそ笑む李周。

この冷静さは李周のプライドの高さからくるものだ。

ここで逃げれば李周は恥を晒す事になるだろう。

しかし、李周が逃げずに陰邪に襲われる様な事があれば、恥をかくのは胡劉となる。

勝ち誇ったかの様な李周と目が合う胡劉。

ここに来てようやく彼女は気付いたのだ。


 ーーこの子、行が使えない!?


 刹那、その気づきが確信に変わった。


 「避けて!兄ちゃん!」


 李周から胡劉までの距離はおよそ三メートル、さらにそこから五メートル程後ろに朱孔がいる。

振り返ると、その距離から朱孔が行を放とうとしているのだ。

手のひらひらを肘を伸ばした状態で身体の前で合わせている。


 ーーそんな距離からでは間に合う筈がない!


 胡劉も李周の方に身体を戻し行を使おうとするが、背後から放たれる強烈な元素反応に振り返ってしまう。

朱孔の合わさった両手からは通常では考えられない程の量の炎が溢れていた。

時間をかければ胡劉でも同等の行を使用する事がでぎる。

だが朱孔が「それ」をするまでの時間が余りにも早すぎたのだ。


 「馬鹿な!この速度でこの質量の行を使用するなんて有り得ない!これが行を極めし者ならばまだ分かる。だが彼はまだ十二歳、こんな事・・・・・・」


 胡劉が行を放つよりも先に、朱孔の手から炎の槍が解き放たれ陰邪を貫いた。




 「ごめんない」


 思いがけない言葉を聞いて、李周が目を丸くした。

まさか、胡劉の口から直接謝罪の言葉が出てくるとは思っていなかったのだ。


 「胡劉さん、顔を上げてください!僕も少し生意気な事をしてしまったと思っています。ですからえっと・・・・・・すいませんでした。」


 二人して高速で頭を下げ合っている姿を見て、心配そうに駆けつけた朱孔と桃花は堪えきれずに笑い転げてしまう。

そんな一件落着なムードになっている状態ではあるが、どうしても胡劉は李周へと告げなければならない事があった。


 「李周君、とても言いにくいんだけど質問したい事があるの」


 李周は少し間を空けた後、唾を飲み込み胡劉に対して頷く。


 「ごめんね。あなた恐らくだけど行を全く使えないでしょう?」


 その問いに言葉が詰まり、頷く事で肯定をする。


 「私もね、講師として色々な地を旅して来たけれど見た事がないのよ。全く行を使えない人なんて・・・・・・」


 李周はこの期に及んで自分を小馬鹿にしているのかと思ったが、胡劉の深刻そうな顔を見るに本当の事なんだろう。


 「・・・・・・そう・・・・・・なんですね」

 「それで李周君が望むのならばだけどね。後、半年もすれば初級中学に上がるでしょ?私の学校であなたが行を習得できる様に力をなるわ。推薦も出しておきますので、悪い話ではないと思いますよ?」


 確かに悪い話ではない。

小学生までが義務教育のこの世界において中学は試験に合格しなければならないのだ。

競争率が高く、なかなか合格者が出ない中で推薦を出して貰える機会など宝くじで一等が当たる確率よりも低いだろう。

しかし、なによりも一番のネックになってくる事がある。

学費だ。

その日暮らしで自給自足の三人家族。金など持っているはずも無い。


 「・・・・・・考えときます」


 そう答える事しか、李周には出来なかった。




 「婆ちゃん!ただいまー」

 

 帰宅してすぐ朱孔は老婆の元へと駆け寄る。

そんな朱孔の頭を老婆はさぞかし嬉しそうに撫でている。


 「今日ね、初級中学の推薦貰ったんだよ!」

 

 その言葉に老婆の顔は一瞬凍りつくが、すぐにいつも通りの笑顔に戻る。


 「朱孔は凄いね。私の自慢の子だよ!こりゃ婆ちゃんも仕事探して来ないとね」

 「推薦貰ったのは僕じゃないよ?兄ちゃんだよ!」

 「李周が?!そんな訳・・・・・・」


 老婆の顔はまた凍りつき、周囲を見渡し李周を探すが彼の姿はどこにも無い。




 一方、李周は既に自室にいる。

床でも殴ったのであろうか、彼の拳は自らの血で染まっていた。


 ーー見た事がないのよ。全く行を使えない人なんて・・・・・・。


 「なんで俺は行が使えないんだよ・・・・・・」


 推薦を貰い、行を会得できるチャンス。

だが、初級中学に通う為の金が彼には無い。

そして彼自身、老婆が朱孔を贔屓ひいきしている事、彼女がそれを自覚していない事に薄々気付いている。

だからこそ、自分も老婆に認めて貰いたい、周りの人間と同じ様に行が使いたい。

その嫉妬心に苛まれているのだった・・・・・・。



 こんにちは、まいちかです。

今回も閲覧ありがとうございます。

ちょっと暗い感じのお話になってしまっておりますが申し訳ありません。

私の趣味です。

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