内緒話
「レベッカの髪には赤も映えるわね!でも瞳の色と同じライトグリーンも良いかも!」
「エミリアの髪にはブルーかな。ん〜、でもイエローも捨てがたいわ!」
お忍び巡回中の殿下達と別れて、ジルに連れて来てもらったのは、メインストリートからは少し離れたアクセサリー店だ。
私とエミリアはお互いの髪に付けるアクセサリーを物色しながら、小声で近況報告をする。
なかなか品揃えも豊富で、同じ位の年齢の女の子に人気の店だ。
因みにジルとライナス様は店の前で待機である。
「それで、エミリア。ナタリーはどう?」
「うふふ。バッチリお友達よ。話した感じ、特別おかしなところもないわね。ただ・・・」
「ただ、何よ?」
「貴族に対しては、あまり近付きたくないみたいね。誰それが格好良いとか、素敵だとか、そういう話は出ないもの。婚約者がいるわけでもないし、積極的に人脈を広げようという気も無いみたい。」
「じゃぁ、マキラの件は?」
「知らなかったんじゃないかしら。」
「え?」
「コルゴナの花が毒薬になるって、知らなかったんじゃないかと思うの。少なくともナタリーは。じゃなきゃコルゴナの名前が出た時に多少の動揺があるはずだもの。でもナタリーはコルゴナは綺麗な花だとはっきり言ったわ。」
「じゃぁ、コルゴナはナタリーの家に??」
「それも無いわ。」
コルゴナは綺麗な白い花を咲かせる。
その花を乾燥させると無味無臭の痺れ薬になり、これをマキラと呼ぶ。
マキラは味はしないが舌がピリピリとした感覚になるのが特徴だ。
多量に摂取すると意識を失い、最悪の場合死に至ることもある。
「ナタリーの両親は隣国出身で、外国から輸入した物を商会や市場に卸す仕事をしているみたい。隣国ではコルゴナは観賞用の花だし、輸出も禁止されていない。」
「でもマキラは王国では毒薬に指定されているわ」
「そうね。だからコルゴナとして輸入したんじゃないかしら。」
「王国の法律に詳しくないナタリー親子は、王国では珍しい花を輸入したことを仕立屋で話していた。それを聞いた従業員がテイラー家に報告したってこと?」
「たぶんね。」
「で、今コルゴナはどこにあるのよ?」
「シュベルツ侯爵家よ。」
「シュベルツ侯爵って、王弟派の?」
「そう。娘のミリアナ様は王太子殿下と同年。お互いに婚約者もいないし、高位貴族同士、接触する機会も多い。少量のマキラを王太子殿下に使って既成事実をつくるのか、それとも多量摂取させて・・・」
「ちょっと、こんなにのんびり買い物してる場合じゃないんじゃー」
「大丈夫よ。これはもう報告済みだし。対策は練られているらしいから。コルゴナからマキラを作る時間を差し引いても、まだ余裕よ〜。」
「それもそうね。」
これなら、まだ当分は学生でいられそうだ。
「それより!さっきの殿下、ずっとレベッカの事見てたわね!」
「え?そうだったかしら?」
「そうよ!私やジルには目もくれずに、レベッカを見つめてたじゃない!」
「ん〜〜、私を見つめていたんじゃなくて、何か考え事でもしてたんじゃないかしら?」
「それにお茶会も誘われてたし。」
「それなら、アルやテオからも誘われてたわよ。」
エミリアは、はぁぁ~と溜め息をつくと、まるで残念な子を見るような目で私を見た。
「・・・殿下、可哀想・・・。」
なんでよ?
結局、この日はアクセサリー数点と、ハーブティーを買い、かわいいケーキとお茶を堪能して、上機嫌で家に帰った。
家に帰って私室で寛いでいると、侍女のルーナが慌てた様子で呼びに来た。
どうやらお父様から話があるようで、執務室で待っているとの事だ。
(マキラの件かしら!)
「すぐに行きます。」
はしたなくならない程度に急いで執務室の前まで来ると、さっと服装を整える。
コンコンコン
「レベッカです。」
「入りなさい。」
入室の許可を得て部屋に入ると、両親とジル、ケリー伯爵、スコット伯爵が揃っていた。
ジルの隣に座ると、侍女がさっとお茶を入れて退室する。
ピリピリとした空気が執務室に漂う。
「今日集まってもらったのは、例のあの件についてだ。先程シュベルツに付けていた者から、マキラがシュベルツ侯爵家に渡ったと連絡があった。――――――」