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レオンハルトside①

最近、ちょっと困っていることがある。


何に困っているかって?


貴族学園の最終学年に進級した時に編入生として紹介された『マシュー・スコット』と言う男の事だ。


テイラー家の遠縁の伯爵家の次男で、学園を卒業したジルの代わりに期間限定で従者として補佐につくと言う。


彼ももちろん間諜の家の者で、腕っ節はジルよりやや劣るが毒薬、解毒に関しては信頼に値すると言うのだ。


隣国から毒薬が持ち込まれたと言う情報を得て捜査にあたっているが、詳細が特定できていない為にテイラー家が手配したらしい。


この男、見た目は平凡なのに、どことなく可愛らしいのだ。


所作は綺麗で、マナーも完璧。


補佐として書類を捌きながら、絶妙なタイミングで休憩を促してくれる。


この前は手土産のマドレーヌをキラキラした顔でほお張る姿に、思わず笑ってしまった。


テイラー家の猫、ベッキーに良く似ている。


あの猫もおやつを食べる時は瞳がキラキラしていたから。


笑うなんてヒドイ、と拗ねるところも可愛いい。


男に癒やされるなんて、おかしいだろうか。


私の側近たちも以前より笑うことが増えたから、みんなマシューののほほんとした雰囲気に癒やされているんだろう。


エメラルドグリーンの瞳が綺麗で、サラサラの銀髪が風になびく。


そう、この銀髪を見ると思い出すのだ。


あの娘のことを。




『レベッカ・テイラー』


私に向けられた暗殺者を瞬く間に仕留めた(殺してはいなかったけど)、あの娘。


その後、何度もジルに頼んだのに、会えたのはたったの一度だけ。


テイラー家のタウンハウスにジルを迎えに行った時に、たまたま居合わせたのだ。


庭園で花を摘んでいるレベッカ嬢に。


光を浴びてキラキラ光る銀髪を風に靡かせて、水色のワンピースを纏う彼女は妖精のように可憐だった。


パフスリーブから覗く腕はしなやかで、ゴツゴツとした筋肉はついていないのに、鍛えられているのが分かる。


侍女と話している声はとても楽しそうで、その表情は柔らかく、暫く目が離せなかった。


彼女が何の気無しにこちらを見たとき、一瞬目があったと思う。


ジルの隣にいる私に気が付いて小走りで寄って来ると、綺麗なカーテシーで挨拶してくれてたのだ。


彼女のエメラルドグリーンの瞳はまるで宝石の様で、私は思わず見惚れてしまったが、ジルの咳払いで我に返った。


彼女ともっと一緒にいたかったのに、「日焼けするといけないから」とジルに言われて、早々に屋敷の中に入ってしまった。


彼女の後ろ姿を見て、焦るような、照れるような、それでいて胸の奥が温かくなるような、そんなふわふわした気持ちになったことを覚えている。




そんなことがあって新学期になり、マシューと顔を合わせた時は本当に驚いた。


彼女と同じ艶めく銀髪に、エメラルドグリーンの瞳だったから。


顔立ちも髪の長さも違うのに、彼女の事を思い出す。


ちょっとした仕草や、お菓子を食べる時のキラキラした瞳は可愛いのに、勉学や剣術の時は凛々しく感じる。


「ロングソードは重いから苦手」と言っていたが、自分よりガタイの良い男にも負けないくらい強い。


ヒラリヒラリと舞う蝶のように相手の剣を受け流し、ちょっとした隙を見逃さずに突く。


たかが練習試合と思って見ていた男たちを一瞬で黙らせた。


スコット家も間諜の仕事を担っているので、とても頼もしいのだが、これはヤバイかもしれない。


「ねぇ、みんな見てた?」と、ばぁっと笑顔になって走ってくる様子が、仔犬みたいでかわいいのだ。


なかには真っ赤になって口をポカンと開けているやつまでいる。


試合の時の凛々しさとのギャップがすごい。


最近、令嬢たちから休憩や放課後のお茶会に誘われているらしいし、令息たちからも鍛錬や市井散策に誘われている。


本人は他人の好意なんて気にせずに、断り続けているが。


マズイな。


本能が警鐘を鳴らす。


何が?


何でこんなに焦るんだ?


男相手に、私は何を考えてるんだ。


マシューは伯爵家の次男だ。


今から色々な人脈を作っておけば、将来も安泰だろう。


結婚相手だって見つかるかもしれない。


そ、そういえば、婚約者は?


もしかしたら、もう誰かと婚約しているのかも。


そう思って、本人に聞いてみたら、「いませんよ。いずれ父が相応な人を見繕ってくれるんじゃないですか?」と返されてしまった。


そのことに、安堵している自分がいて、少し笑った。


本当に私はどうしてしまったんだ。





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