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桃花☆ひなあらレンジャー・ピンク

3月3日


桃の節句


別名ひなあられの日


人々はピンク・緑・白の三色に彩られたひなあられを食べ、穢れを払い無病息災を願う。


桃の花には魔除けの力があると言われている。


この日、桃花☆ひなあらレンジャーは降臨する。


ピンクは魔除け

緑は健康

白は清浄


それぞれのカラーをまとった桃花☆ひなあらレンジャーは、人々の無病息災を願い今年も活動する。



桃花☆ひなあらレンジャー・ピンク


お昼の情報バラエティー番組に、東京ドームが映される。人、人、人。東京ドームの周りは見渡す限り人で埋め尽くされている。


「ご覧ください。この長蛇の列。ずっと先まで続いているのがご覧いただけると思います。」

テレビクルーを引き連れたレポーターが、カメラに向かって話しかける。

「ヘリコプターからの中継を見てましょう。東京ドームを囲うように、放射線上に長蛇の列が出来ています。ひなあられの日名物『桃の花』です。人々が各方面から東京ドームに向かう姿から名付けられました。この混雑に対応するため、今日は東京は車の侵入が全面禁止となっております。ドライバーの方はお気をつけ下さい。」


スタジオの男性アナウンサーに画面が切り替わった。

「今日は残念ながら国民の祝日ではないので、みなさん出社登校されていると思います。毎年のことですが、交通が混雑するため、私は昨夜は局に泊まりました。」

男性アナウンサーは苦笑いする。


「加瀬さん、毎年恒例ではありますが、桃花☆ひなあらレンジャー・ピンク様のご活躍を説明してください。」

男性アナウンサーがレポーターに引き継ぐ。


「はい、今日は桃の節句であり、ひなあられの日です。一年に一度、桃花☆ひなあらレンジャー様方が降臨される日です。東京に降臨されるのは桃花☆ひなあらレンジャー・ピンク様。魔除けの妖精様でいらっしゃいます。かつては人々の邪を祓い、魔除けをされていましたが、時代と共に人に寄り付く魔、つまり悪縁で繋がれた関係、という解釈がなされ、今では縁切りの妖精様として有名になられました。

ストーカー、元彼元カノ、毒親、セクハラモラハラ上司、部下、同僚、モンペ、クレーマーなど、さまざまな悪縁を切ってくれるありがたい妖精様です。」


スタジオの男性アナウンサーが女性アナウンサーに、

「どうですか、中島アナも切りたい人とかいるんじゃないですか。」

とニヤニヤしながら聞いた。

女性アナウンサーは、

「そうですね。ハラスメントがない世の中になればいいと思っています。」

と頬をひきつらせながら返した。


「東京ドームでは、桃花☆ひなあらレンジャー・ピンク様が悩める人々のお話を聞いてくださっています。この行列はその順番待ちです。」

レポーターはほらこんなに人がいっぱい、と腕を伸ばして行列を指した。

「お昼でこの列ですからねぇ、まだまだ伸びるでしょうね。」

コメンテーターの一人がうんうん頷いた。

「さらに伸びると思われます。」

レポーターは真剣な顔をして答えた。


「何人かにお話聞かせてもらいましょうか。すみません、あなたはどのような?」

レポーターが女性二人組にマイクを向ける。

「私は今彼よりいい人が見つかったから切ろうと思ってー。この子は上司がモラハラなんですうー。」

「ちょっと!これテレビだよ!」

「大丈夫、大丈夫。今日で切れるんだから。イェーイ!」

女性がカメラに向かってピースする。


「次はこちらの男性に聞いてみましょうか。」

「ちょっ!映さないでください!プライバシーの侵害ですよ!」

「すみませーん。ではこちらの女性に。」

「夫が借金こさえて帰ってきて!3年間音信不通だったのに!」

「あー、それは大変ですね。」

「それでね!あの人がね!」

女性はレポーターの肩を掴んで揺さぶった。

「では前に進んでみましょうか。」

レポーターはにこやかに女性の手を払い落とすと、東京ドームの中に進んで行った。



会社の近くの和食屋で二人のOLがテレビを見ながらランチをしてる。お昼のテレビはどこも東京ドームの様子で盛り上がっている。

「あんた去年コレ行ってなかった?泊まりがけで並ぶとか言って。元カノだっけ?ちょっとヤバイ感じの。」

「…行った。」

「切れたの?」

「…切れた。」

「よかったじゃない。」

「よかった…のか。」

「よかったでしょ。あんたの元彼やばい方向にやばかったじゃん。なんか起きる前に切れてよかったよ。」

「そうなんだけど…」

「けど?」

「なんかさ、」

はーっとOLは重いため息をついた。

「恋愛関係が一切弾かれてるんだよね。防水スプレーかけたばっかりの傘みたいな感じ。完全防水、ならぬ完全防恋?前から気になってたほら、営業で来る男の人いたじゃん。」

「ああ、あのスラッと背の高いスポーツやってました、みたいな人?」

「そうそう。その人に何度声かけても箸にも棒にもかからなくて。スルーされてるのかなと思って、ちょっと強引気味に押してみたんだけど。なにせ元彼と切れたばっかりでテンション高かったから。でもなんか、迷惑だと思われるのにすら至らないというか。」

「へー、鈍感なんじゃない?」

「いや、さすがにこれはおかしいと思ってネットで調べてみたら、なんと縁を切った時に恋愛自体が切られたみたいで。」

「恋愛自体が?」

「そう。恋愛の欲?みたいなのが全部祓われちゃったみたいで。効果は約5年。個人差あり。」

「5年?えっこの歳で5年?」

「…そう。最短で4年8ヶ月で効果が切れたっていう人の体験談は、彼を崖っぷちまで連れてって『あなたが付き合ってくれなきゃここから飛び降りる!』ってしたらしくて。」

「なにその2時間サスペンスのラストみたいなの。てか5年後、いや今からだと4年後だけど、それから恋愛・婚活市場に参入するの?ぴちぴちの女子たちに混じって?」

「わーん!それは言わないでよぉ。でも私はまだマシな方なんだから。

上司と縁切ったら会社とも縁が切れて無職、再就職も決まらないとか。

モンペと切れたら全生徒が登校拒否になったとか。

クレーマーと切れたら客が一切来なくなったとか。

毒親と切れたら遺産分配のときに頭数に入れてもらえなくてゼロだったとか。」

「枚挙にいとまがないね。」

「縁を切った辺りの関係がざっくり切られるらしくて。」

「ああ、ひなあらレンジャー様だもんね。人間の心の機微は理解できないのかもね。」

「『縁切女子』のハッシュタグで調べると、もう恋愛はいいからって他の方向に突き進んでいく女子がたくさん出てくるよ。ロッククライミングとか。日曜大工とか。写経とか。」

「あー、恋愛お年頃の女子ってそれだけ体力気力が溢れてるからね。シングルだと一人で使えるお金も多いし。」

「だから効果が切れた後も恋愛市場に戻らない人が多いらしいよ。」

「いいのか?それ。」

「わかんない。でももう私もいいかなって。私も写経とかしてみようかなって。鎌倉に写経で有名な寺があるみたいなんだね。紫陽花がキレイなんだって。行ってこようかな。」

「ちょっと!まだがんばんなよ!」

「でも毎日穏やかだし。これはこれで平和かなって。」

「悟るなよ!もっとギラギラして生きようよ!」

「うん…ふふ。あそこに並んでる人もこれからイロイロね。ふふ。」

「…それでもみんな行くんだね。」


テレビでは桃花☆ひなあらレンジャー・ピンクの元に辿り着いたレポーターが中継をしている。

「こちらの方は彼と縁切りを希望されています。」

「お願いします!彼と!縁を切りたいんです!」

女性が必死に懇願する。


ピンクのボンボンを頭に付けた桃花☆ひなあらレンジャー・ピンクは、

「オッケーだよ!あなたの魔除け、発動ひなー!」

と言って桃の花がついた杖をかざした。辺り一面がピンク色に光り、女性を優しく包む。


ここにも魔除けの加護を受けた人が一人。


「私もあの光に包まれた時は『救われた』って思ったんだけどな。」

OLはポツリと呟いた。

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