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予知より余地

作者: 空見タイガ

 予知には可能性がないが余地には可能性しかないので予知能力者より余地能力者のほうが断然につよつよと胸を張る転校生をクラスメイトの恩納といっしょに脇を固めて体育館裏のじめじめとした陰に連行し学園最強の予知能力者と対決させることにした。

「ぎゃあ、転校初日に番長とその手下どもに囲われて殴られる!」

「それはお前の未来じゃないなあ」

 四ツ名は「ちっこいなあ」とつぶやきながら宿敵になるかもしれない余地能力者のナントカの頭をグーでポンポンとリズミカルに叩いた。

「ほら、殴っている!」

「叩いているとも言えるのではないか」

「おいおい、余地能力者が予知能力者に解釈で殴られているヨ」

「勝負はもうついたな」

 断然によわよわ転校生は伸ばした手を振り回して、その場でぐるぐると回転したと思うとおれを正面にして止まり、涙目で指をつきつけた。

「オマエ、明日、告白されるよ」

 恩納と四ツ名は顔を見合わせたあと、転校生と親しげに肩を組んだ。

「苦し紛れに変なことを言うんでないヨ。道徳心から婉曲な表現しかできないが、彼はつまらない男だヨ」

「天変地異をこの俺が予知できないはずがない。きっとお前の気のせいだろう」

「番長とその手下に囲われて殴られている……」

 転校生は悄げているおれを励ますように「そんなことないよ。まだ未来は確定していないから予知ではわからないだけだ。だけど、明日のオマエには告白される余地がある!」と言ったが騙されている気しかしない。

「わかった、転校生。なら俺は明日、コイツがだれにも告白されずに期待を打ち砕かれてめそめそと泣いて帰ることを予知しよう」

「望むところだ!」

 というわけで、よわよわ転校生に告白の「余地」を与えられ、つよつよ番長に告白されないと「予知」された俺は解散したあとひとりでめそめそと泣いて帰ることになった。


 運命の日。眠れなくて遅刻ギリギリに起きてしまったおれは急いで家を飛び出して塀に隠れていた恩納にぶつかり尻をついた。

「もう、なにすんのヨ。前見て歩きなさいヨ」

「前見て歩いたらぶつかったんだよ。なんでここにいるんだよ」

 てめえの家は学校の真ん前だろうが。にらみ合っていると視界の端に鞄を拾い上げる手が見えた。

「ああ、ありがとうござ」

「これから全速力で走ったら間に合う。そして今から全速力で走ることになる。だから心配するな。お前は間に合う」

 予知番長の四ツ名がおれと恩納の鞄を持って走り出した。いったい何なんだ今日は。聞く暇もなくいつの間にか後ろに回っていた恩納に背中をつつかれながら学校に向かって走った。結果、予知どおりに間に合ったはいいが、他クラスに在籍しているはずの恩納と四ツ名がおれの教室に入ってきて担任に追い出されるまで居座ったので彼らはホームルームに遅刻した。

 一時間目が終わってすぐに二人がやってきた。おれは机をバンと勢いよく叩いて立ち上がった。

「おい、おめえらのせいでみんながおれに告白をするチャンスを失っているだろうが!」

 壁時計の秒針が心なしか止まった。静寂に漏れた「ナニ言ってんだアイツ」「自意識過剰かよ」「湖にうつった自分に惚れてそう」の声が重なりあって大きなエコーとなった。恩納はうんうんと頷き、四ツ名は首を縦に振った。

「俺は転校生の言うことを信じているわけではない。だが、万一に備えねばならない。最強とは油断しない強い心から生まれるからな」

「人の恋路をジャマするのにそんなカッコいい言い訳があるんだ……」

 というわけで、休み時間のたびにべったりと張り付く恩納と四ツ名のせいでおれはちっとも告白されなかった。二人が悪魔のような顔をして「あの転校生はやっぱり嘘つきだヨ」「まあ曖昧なことを言いたがる奴にろくな人間はいないさ」と話して俺を解放するころには完全下校時間。それでも部活を終えた女の子がおれを探しているかもしれないと校門のそばで待っていて、声をかけられた。

 余地能力者だ。

「その様子だとまだ告白されていないようだな!」

「あいつらに妨害されたんだ。もう明日には告白されないかもしれないのに」

 校門のそばには明かりがあったし、学校もピカピカしていたから夜で暗くても余地能力者の表情ははっきりとわかった。

「あのさ、どうして天気予報が外れると思う? 予知能力者がいないから? 違うよ。明日の天気はあらかじめ決まっていないからだ! 未来にはいつも余地があって、決定されていないから予知なんてできない。オマエもそうだよ、今日がだめでも明日も明後日も余地がある」

「じゃあおまえの余地とやらは能力でもなんでもなくて単なるあてずっぽうだ」

 余地能力者は「違うよ」と言った。言った。でもその次はなかなか来なかった。「なんだよ」と聞いた。「うーん」と言われた。「こっちがうーんだよ」と返した。「私と付き合いたまえ!」と言われた。

 うーん。

「ぽっぴゃらぱあ?」

「初めて会ったときに余地が見えた。コイツと仲良くしたらきっと思いがけないことが起こる。どこまでもどこまでも遊び尽くせないぞって。だから鎌をかけてオマエに恋人がいないことを確かめたわけ」

「ななな、なら明日、というか今日でなくても昨日のうちに告白すればよかったのではござらんのではないでしょっかあ」

「気の迷いかもしれないし、一睡することにした」

「おれの一日をもてあそびやがって! 過ぎた青春は返ってこないんだぞ」

「だから返してあげるよ」

 ちっこい転校生は上目遣いのくせに見下ろすような、かわいがってやると言わんばかりの邪悪極まりない無邪気な笑顔で、つまんだスカートの両端をぴらぴらと動かした。

「とにかく誰にでもいいから告白されたくてたまらない青春男くん、オマエに私の告白を断る余地などない」

 あらかじめ決まっていることなど何の値打ちにもならないが、これだけはいつ何時でも確定している――余地能力者はつよつよである。

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