【第二部】第四十三章 露天風呂にて
――“青ノ翼”ホーム・露天風呂――
「広いお風呂にゃ~!!」
「お空が見えるでありんす!」
「これこれ、泳ぐでない。無作法じゃぞ?」
「……いい。皆で楽しめれば、それで」
昼食を取り終えると、皆、思い思いに寛ぐことに。
アレンは長旅で疲れていたのだろう、寝るために部屋へと向かった。琥珀、稲姫、青姫、レインの女性陣は、ホームにある露店風呂に入りに来ていた。
「……青姫ちゃんたっての希望で、露天風呂を頑張って作った」
「うむ! やはり、風呂は露天に限るからの!」
自慢げに胸を反らす青姫。豊かな双丘がぷるんと震えるのを稲姫が恨めしげに見つめる。視線に気付いた青姫が勝ち誇った笑みを浮かべ、当然のことのように稲姫を挑発した。
「大きいのも考え物じゃて。肩が凝って仕方無い……」
アンニュイなため息をつき、肩を回して大変だとアピールする。――稲姫のこめかみに青筋が立った。
「……いい度胸でありんすね。――少し分けるでありんす!」
「な、なにをするのじゃ! や、やめぃ――ぁ、そこはっ!」
襲い掛かってくる稲姫に好き放題まさぐられ、青姫が逃げようともがく。
「琥珀! レイン! 助けてたもれ!」
「じゃあ、うちも入るにゃ♪」
「……ほんと、大きくて羨ましい」
琥珀とレインまでも混ざりだし、収拾がつかなくなる。――露天風呂に青姫の嬌声が響き渡った。
◆
――居間――
「……何してるんだあいつら」
「まぁ、いいじゃないか。――こんなに楽しそうな青姫は初めてだよ」
「違ぇねぇ」
居間でくつろぎながらラルフとエーリッヒが笑い合う。
青姫はいつも明るかったが、ふとした時に寂しそうな顔をしていた。それを良く知る二人だからこそ、青姫に掛け値無しの笑顔が戻って嬉しいのだ。
「エーリッヒ、これからどうするんだ?」
「後で二人にも相談しようと思ってたんだけど、青姫達に付いて行くのがいいんじゃないかな? 何か困ってるみたいだし。――まぁ、詳しく事情を聞いてからだね」
ラルフの抽象的な問いにも関わらず、望まれる答えを返す。この辺のやり取りは、昔からの腐れ縁の成せる業だろう。
二人とも、これからは青姫がアレン達と行動を共にする前提で考えている。青姫と一緒にいる期間も長い。二人には手に取る様にわかった。
「考えるまでもなく、レインが付いて行きたがるだろうがな」
「そうだね」
二人で苦笑する。
――相談するまでもなく、この後どうするかは決まってる様なものだった。
◆
――露天風呂――
乱痴気騒ぎが落ち着くと、青姫が表情を改め、琥珀と稲姫に問う。
「――やはり、あの時からか? 我が君の髪色が変わっておるのは」
「うちと会った時には、既に今の“銀髪”だったにゃ」
「――わっちが目覚めた時もでありんす……」
青姫の急な問いにも関わらず、琥珀と稲姫がすぐに反応する。やはり、二人も気になっていたのだろう。
「稲姫よ。――“あの後”、何があったのじゃ?」
「“あいつ”に襲われて主様の中で眠りについてからは、わっちも意識が無かったでありんすよ」
「そうか……わからずじまいか」
「碌なことじゃないのは間違いないにゃね」
青姫と琥珀から抑え切れぬ怒気が発せられる。あの時の襲撃者達に捕らわれ、“アレンが何かをされた”。そう考えただけで、はらわたが煮えくり返りそうだった。
「……何があったの?」
レインが首をかしげながら3人に尋ねる。
「我が君の髪色はもともと“黒”だったのじゃ。だが、今は――」
「原因も予想はついてて、うちらが離れ離れになった元凶――“襲撃者達”にご主人が捕らわれて、それで“何か”をされたからに違いないにゃ!」
レインは今の銀髪のアレンしか知らないから違和感が無いのかもしれないが、昔から付き合いのある三人にとっては、大事な人に手を出された痕が目の前にある様なもので、憤慨ものだった。
「……そう、大変だったのね」
「でも主様の力も取り戻せて来てるでありんす! きっと髪色も元に戻るでありんすよ!」
目を伏せるレイン。――そして、皆が怒り悲しむ空気を和らげようと、稲姫が笑顔で大丈夫だと主張する。
「うむ! 当然じゃ。――すまんの、少し弱気になっておったようじゃ」
「あいつら――次見たら確実に始末するにゃ」
琥珀の目が据わっている。<闘気解放>して風呂を破壊してしまわないか心配だ。
「――あ、そう言えば稲姫よ! 我が君と“仲の良い”という女子について、詳しく話を聞かせるのじゃ!」
「“あの子”でしょ。エリスでしょ。――それに、クレアや学校の教官!」
「にゃはは! ご主人はやっぱりどこでもモテモテにゃよ」
「……とても興味深い」
再会した時の会話を思い出した青姫が稲姫に問い質す。
――それからしばらく女性陣は、かしましくアレンの色恋について語り合うのだった。




