【第二部】第四十章 青姫達との念話
――宿屋――
「う~ん。青姫ちゃんの居場所はわからないにゃ。――そう言えば、どこかのグループと、よく探索に出掛けてる様なことは言ってたにゃ」
「仲間がいるんだな。“妖獣”の仲間なのかな?」
「詳しくは聞いてないんにゃよねぇ」
『ごめんにゃ』と琥珀に謝られるが、知らないものは仕方がない。
「じゃあ、当初の予定通り、“中つ国”にあるっていう、楓達がいる隠れ里を目指すか。――今日はもう遅いし、寝ようか」
消灯し、ベッドに入る三人。アレンを中心に二人が左右に陣取り、いつもの様に寝る。夜中、寝静まった頃――
「――お、おお!?」
「何でありんすか!?」
「う、う~ん……?」
アレンと稲姫は、急に頭の中で響いた声に驚き跳ね起きる。騒々しさに琥珀も目を擦り、起き上がるのだった。
◆
(……夜遅くにごめんね? 急を要することみたいで)
“青ノ翼”のレインからだった。アレンと稲姫に<念話>を接続している様だ。――何かあったのだろうか。アレンは疑問に思うが、すぐに答えの方から呼び掛けてきた。
(我が君! そこにおるのか!?)
懐かしい声――ちょうど先程話題に挙がっていた青姫だった。なんというドンピシャなタイミング。こちらの会話が聞こえていたのかと疑うくらいだ。
(――そ、その声は“青姫”か?)
蘇りつつある記憶から確信するも、念のため聞く。
(もちろんじゃ! ――我が君、わらわの事を忘れてしもうたのかえ?)
悲しそうな声音の青姫に、アレンは自身の記憶喪失について説明を始めた。
◆
(なるほど……“あやつら”、ただでは済まさぬ。――でも、我が君が生きていてくれて、本当によかったのじゃ!)
念話の向こうから聞こえてくる震えた声に、アレンの心が温まる。
(随分心配をかけてしまったな。俺だけじゃなく、稲姫も目覚めたし、琥珀も元気だぞ?)
(お久しぶりでありんす!)
(お久しぶりにゃ、青姫ちゃん!)
アレンはアーティファクトを使い琥珀も念話に加えられないか試してみたら、無事出来た。結構応用の利く魔法みたいだ。
(こ、琥珀よ! 我が君が見つかったなら、何故わらわに知らせないのじゃ!?)
(だって、青姫ちゃんの居場所、わからなかったし……)
うぐっ! と青姫が声を詰まらせる。そんな時――
(おいおい。置いてけぼりの俺らにも、何がどうなってるか教えてくれや)
(そうだね。――琥珀さん?という方もいるのですね?)
(……まさか、あの時の猫ちゃん?)
状況に付いて来れてない“青ノ翼”メンバーにも分かる様、アレンは経緯を簡単に説明した。
◆
(――なるほど。アレン君の元の名は“神楽”。そして、皆さんはもともと、東の海を越えた先――“和国”で一緒に暮らしていたと)
エーリッヒが要約してくれる。
(そうだったのか。――なら、<念話>だけで再会っていうのも寂しいよな。どこかに集まるか?)
(……賛成。今、アレン達はどこにいるの?)
(リムタリスの宿屋です)
(今すぐ飛んで行くのじゃ!)
冗談でなく今すぐ飛んで来そうな青姫を、ラルフが慌てて止める。
(ま、待て待て。俺らが付いていけないし、今日は遅いから明日でいいだろ)
ラルフは大柄な見た目に似合わず、意外と常識人なのだった。――苦労人と言えるのかもしれないが。
(……うん。じゃあ、明日そっちに向かうから)
(え? 悪いですよ。俺達の方から伺います。どこにいるんですか?)
こうも早くエクスプローラーになれたのは、“青ノ翼”の人達の推薦状があったからだし、他にも、“念話のアーティファクト”をもらったりと、色々とよくしてもらっている。これくらい当然だろう。
『こちらから話を持ち掛けたのに来てもらうのは悪い』と断ろうとするレインさんに、アレンは「そちらのホームにも行ってみたいですし」と前向きな理由で説き伏せ納得してもらった。
(……じゃあ、また明日。気を付けて来てね)
(明日は宴会だな!)
(だね。上質なお酒と食事を用意しておくよ。期待してくれていいよ)
(うむ! 楽しみじゃ!!)
ホームの場所を聞き、アレン達は明日向かうことに。
別れの挨拶を済ませて念話を切り、アレン達は顔を見合わせ笑い合う。
「こんなことってあるのか……まさか、あの人達と一緒にいたなんてな。それに、こんなタイミングで見つかるなんて。――あ。まさか、“青ノ翼”って、青姫のことなんじゃ?」
「そうなのかもしれないにゃね。――こんなの普通、気付かないにゃよ……」
――そうして、明日の再会を楽しみに、アレン達三人は再び床に就くのだった。




