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神の盟友  作者: 八重桜インコ愛好家
【第二部】“旅立ち”編
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【第二部】第三十八章 託す想い

――森林部――



 “怒り”と“泣き顔”を討ち取られ、“笑顔”と“愉悦”は不利を悟ってか“怒り”の遺体を回収し直ちに撤退した。“泣き顔”は青姫の<豪火球>で消し炭にされ、遺体すら残っていなかった。


「追わないのかえ?」

「――さすがに、これ以上はもたないにゃ」


 琥珀の纏っていたオーラがふっと消え去る。かなりギリギリだったのだろう、琥珀は肩で息をしていた。あのまま交戦が続いたら、逆にマズかったかもしれない。それに、今は――



「ご主人達が心配にゃ」

「わかっておる。早速向か――」


 まさしくその瞬間、青姫と琥珀は神楽と繋がる“門”が閉じるのを感じる。


「琥珀よ!」

「わかってる! 急ぐにゃ!」


 青姫と琥珀は嫌な予感に駆り立てられ、神楽達のいる村の中央広場に急ぎ向かうのだった。


――森林部・村への道中――



「何じゃ、あれは……」

「“赤い結界”?」


 琥珀は地を駆け抜け、青姫は飛びながら森林を進み、村に向かっていた。青姫の戸惑う声に導かれる様に琥珀は木の枝に飛び移り、“それ”を見る。


 そこには、村の中央広場を覆う様に、半透明な赤のドーム状結界が形成されていた。



――“アレはマズい”。


 直感がそう告げており、更に速度を上げて村に向かおうと頷き合う琥珀と稲姫に、どこからか声が掛けられた。


「琥珀、青姫……そこにいたか」


 半透明な人型の“それ”がいつの間にか近くにいて、琥珀と青姫に呼び掛けた。



「我が君……?」


 青姫の戸惑う声が“それ”に投げ掛けられる。


――“それ”は神楽の姿をしていた。


「時間が無い。この姿は、そうだな……説明が難しいけど、稲姫の<憑依>を応用したものだとでも思ってくれ。一種の精神体だな」


 精神体の神楽は説明を続ける。


「今、身体から抜けて二人に“お願い”をしに会いに来た。――聞いてくれるか?」

「もちろんじゃ。何なりと申すがよいぞ」

「うちも何でもするにゃ!」


 青姫と琥珀の色良い返事に神楽が口元を(ほころ)ばせ頷いた。――そして二人に“お願い”をする。



「二人には、既に脱出してる避難民達と合流して遠方――海を越えた先にあると言われる<中つ国>に行って欲しい」



「何でうちらだけ……ご主人達も一緒に行くにゃ!!」

 

 琥珀が狼狽(うろた)えながら訴えるが、神楽は目を伏せ首を横に振る。


「面目無いけど、俺達は既に“奴”――蛟の言っていた強者であり、過去に稲姫を襲った奴に捕らわれてる。――長老や団長は殺され、二人に付いていた神獣は“取り込まれ”、蛟も無力化された」


 神楽が無念そうに告げる。


「どうして……」

「あそこに半透明なドームが()えるだろ? アレが“奴”の能力――奴の力は“門”を閉めて“根源”からの力の供給を断つ。そして、奴はどうやってか身の内に“妖獣”を取り込むことが出来るんだ」


 琥珀と青姫の目が見開かれる。


「そんな力、聞いたことも無いにゃ!」

「うむ。――だが、我が君が嘘をつく理由も無いのじゃ。本当のことなのじゃろうて」


 混乱する琥珀に対し、青姫は冷静に事実として受け止める。神楽は二人に頷き話を続けた。


「だが、奴の力にも限度はある。今こうして、稲姫の力が使えていることから、門は完全には閉じ切っちゃいない。――それに、蛟を取り込めなかったことから、取り込める妖獣の量にも限度がありそうだ」


 気休めになるかはわからないが、際限無い能力では無いと分かれば、まだ希望はあるだろう。



「稲姫ちゃんはどうしてるにゃ?」


 琥珀が話に出なかった稲姫について問う。神楽は一度目を伏せ――やがて、顔を上げて語る。

 

「稲姫は――今は俺の中で眠ってる。稲姫も“奴”に取り込まれかけたんだけど、最後の力を振り絞って<憑依>で核になる部分を俺と同化させたんだ」


 神楽が胸元を手で抑える。琥珀と青姫にも、どことなく稲姫の気配を感じられる気がした。



「時間が無い。俺も(じき)に元の身体に戻るだろう。話を戻すぞ。――琥珀。お前は生き残りを連れてここから脱出し、楓達を守ってやってくれ。――青姫。お前も一緒に脱出して、その後は“神璽(しんじ)”を探し出してくれ」

「我が君。“シンジ”とは何じゃ?」


 神楽は蛟から伝え聞いたことを青姫に伝える。


「蛟から聞いた話だが、ここ“和国”に古くから伝わる勾玉(まがたま)の秘宝だ。――だが、いつしかこの国から持ち去られ、今はどこにあるかも定かじゃないらしい。そんな物を探してくれと頼むのは、荒唐無稽だとわかってるが――」


 一度言葉を区切り、青姫が飲み込み頷くのを確認して続ける。


「神璽には伝承があり、“あらゆる異能の干渉を()退()ける”力があると伝えられている。――そんな伝承に(すが)るしか無いのも悔しいが、今はそれしか奴に対抗する手段が思いつかない。――俺達は“根源”からの力に頼り過ぎていた」


 神楽が悔しそうに手を握りしめる。そんな神楽を落ち着かせようと、青姫が笑って答えた。


「わかったのじゃ、我が君。だけども、奴に対抗できそうな力――“根源以外の力”があれば、それでも良いのじゃろう?」

「ああ。他にも手がありそうなら探してくれ。奴はこれからも災いを(もたら)すと、俺はそう確信してる。――あと、蛟が言っていたんだけど、『聖域で戦えば、奴の力もある程度はね退けられるかもしれない』と」

「なるほど……“根源”との繋がりを強くすることが出来れば、それも対抗手段になり得るのじゃな?」


 青姫の飲み込みの早さに神楽が満足気に頷いた。そして、神楽はふと違和感を感じ、静かにしている琥珀を見た。



 琥珀は泣いていた。顔を伏せ、涙の雫が地面を濡らしている。


「琥珀。泣くでない。――わらわ達にはやらなければならぬことがある」

「――わかってるにゃ」


 琥珀は袖で涙を拭い、目元を赤く腫らした面を上げ、神楽に向き直る。


「ご主人。約束にゃ。――絶対、死なないって」

「それは――できる限り(あらが)ってみせるよ。約束する」


 どこか自信無さげに応える神楽を琥珀が叱咤(しった)する。



「それじゃダメにゃ!! 死んで霊になっても“そいつ”を倒すって約束しないと、言うこと聞いてやらないにゃ!!」

「それ、既に死んでるんじゃないか?」


 思わず笑う神楽だが、琥珀の(かつ)に応える様に宣言する。


「わかった。俺が死んだら眠ってる稲姫も死ぬだろうし、絶対に生きてやる。死んでも今みたいに精神体としてあり続けてやる。――まぁ、稲姫の力が回復すれば、何とかならない気もしなくはないしな」


 神楽は常のごとく自信ありげに笑って見せた。


「それでこそ我が君じゃ!! ――もし死んで何処(いずこ)へ去っても、どこまでも追い掛けるからの?」

「お、おう」

 

 青姫がサラッと怖いことを言い、別の意味で気圧(けお)される。本当にやりそうな怖さがある。


「じゃあ、しばしのお別れだ。――また必ず会おう、二人とも」

「絶対にゃよ!!」

「うむ!! “しばし”の別れじゃ!!」


 胸元に寄ってくる二人を神楽が抱きしめる。精神体なので恰好(かっこう)だけだが、二人は笑顔を見せてくれた。


 そうして、神楽の精神体が掻き消えた。



――琥珀と青姫は頷き合い、避難民達と合流するため、村とは反対の方向に駆けて行くのだった。



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