【第二部】第三十七章 猫と鷺と
――森林部――
琥珀を救いに現れた青姫が辺りを見回す。“笑顔”、“怒り”、“愉悦”――そして“泣き顔”の仮面をつけた道化達がこちらを注視していた。
「ふむ……“人ではない”のぅ。かといって、わらわ達と同じ気配は感じるが“妖獣でもない”。――はてさて、面妖な」
不意打ちで襲いかかってくる氷柱に目も向けず扇子を一閃。忽ち蒼炎に飲み込まれて氷柱が消滅した。
「ふむ、ちと小うるさい蝿が飛んでおるようじゃ。――琥珀」
「わかったにゃ!」
死角から青姫に襲いかかってくる“笑顔”と“怒り”、そして“愉悦”の仮面達を琥珀が同時に相手取る。
「さっきまでの様にはいかないにゃよ?」
“怒り”の放つ鉄球を鎖ごと引きちぎり、手に入れた武器をぶん回して“笑顔”と“愉悦”にお見舞いする。盛大に吹き飛んでいく二人には目も向けず、鎖を持ち鉄球を振り回しながら“怒り”に相対した。
全身からオーラを立ち上らせた<闘気解放>モードの琥珀を目の当たりにし、“怒り”の身がすくむ。――容赦無用の豪速球が琥珀より放たれ、“怒り”が仮面ごと頭部を叩き潰された。
◆
「先程からコソコソと……恥を知れ!」
上空に位置取る青姫は、地上の木々に身を隠しながら氷柱を放ってくる“泣き顔”と交戦していた。
向かってくる氷柱群を蒼炎で払いつつ、青姫は敵の隠れ潜む木々に蒼炎を放っていく。
“泣き顔”は木が燃やされる度、次々と隠れ場所を変えるが、――不意にその動きを止めた。
「ようやく気づいたのかえ? ――既に其方の逃げ場は無いのじゃ!」
“泣き顔”が見回す先――四方全てが蒼炎の壁に覆われている。虫一匹の抜け道も無さそうだ。
「では――潔く燃え尽きよ!!」
青姫が片手を天に掲げると、極大規模の蒼炎球が形成される。
そして、“泣き顔”の周囲一帯を灰塵に帰そうと、炎球は止まる所を知らずに膨れ上がった。
――<豪火球>
見た目が示す通り、威力と影響範囲をどこまでも追求した全力の炎球だった。
青姫が掲げた手を“泣き顔”に向けると、<豪火球>が一直線に向かっていく。
――“泣き顔”は視界一杯に広がる“蒼”に呆然と立ち尽くし――忽ち飲み込まれ消滅した。




