【第二部】第三十五章 迫り来る脅威
――村・中央広場――
中隊規模の敵を片付け終えた神楽達は、後続が来ないことを確認し、村の中央広場に移動していた。すぐさま団長の元に伝令が駆けつける。
「森林部の戦いはどうなっている?」
「水神様の御力で山火事は消化され、戦線を立て直しつつ敵軍の撃退に当たっております」
敵の放火により一時は劣勢に追い込まれていた団員達も、何とか持ちこたえている様だ。神楽が琥珀に意識を向けると、どうやら<闘気解放>をしながら敵を掃討している。これなら戦線が破られることも無いだろう。
<闘気解放>は一時的に爆発的な力を得る代わりに消耗が激しく、継戦能力が犠牲になることから、なるべく早めに勝負を決めたいところだ。
「では、森林部の援護に回りましょうか?」
「そうだな。神楽達は森林で交戦中の部隊の援護に――」
「いや、待て――“奴”が来るぞ」
蛟が視線を向ける方角には、今まで全く動きを見せなかった後方の敵陣があった。今なお一個中隊――二百人――程度の敵兵を擁している。蛟の言う“奴”というのは、蛟をして“人では敵わぬ”と言わしめる存在であり、神楽であろうと、“戦えば負ける”との忠告を受けている。
――本当の脅威は、これから訪れようとしていた。
◆
「“奴”は真っすぐこちらに向かって来ておるが……他にも、強い気配を放つ者達が数体、森林部に向かっておるな」
『奴”よりは劣るが』とのことだが、蛟が強者と認める以上、並々ならぬ相手であるはずだ。それが複数。嫌が上にも、神楽達の危機感が煽られる。「奴が来る」と聞いて稲姫の表情が険しくなり、手が胸元で強く握られた。
「そうか……じゃあ、俺はこの場に残るよ。――青姫、森林部の援護に行ってくれないか? 琥珀と協力して、そいつらの相手をしてくれ」
「承知じゃ!」
すぐに飛び立っていく青姫に神楽が声をかける。
「ヤバいと思ったらすぐに知らせてくれ! 生き残ることが第一だぞ!!」
青姫は振り返ると、笑顔で神楽に手を振り、そして森林部に飛び去って行った。
「では儂らは、その“奴”とやらを迎え撃つとするか。――さて、どの様な化け物かのぅ」
富岳が厳しい表情で村の入口を睨む。
――そうして、神楽は“奴”に出会った。




