【第二部】第三十四章 動き出す脅威
――敵側・天幕――
「――お前達は、たったあれだけの人数も倒せないのですか?」
「お、お許しください! あの者達が異常なのです!」
伝令の苦し紛れの言い訳に博士が鞭で応える。たった数人に中隊がまるごと殲滅されたと聞き、博士の機嫌は底を割っていた。
伝令は傍から戦闘を見て状況確認し、報告に来ただけだ。――なのでこれは、博士の理不尽な八つ当たりなのだが、止められる者などこの場にはいない。
――いや、一人だけいた。
「まぁまぁ、博士。こいつの言う通り、今回は相手が悪かったよ。話を聞く限り、敵の中には“同時に複数の異能を操る子供”もいるらしいじゃないか。――それも、神獣クラスの力をね」
伝令も良く知る特級戦力――“Sナンバーズ”の頂点である“S―01”だった。
ナンバーズの者達に“名”は無い。研究施設で管理される彼らには、アルファベットと数字が識別記号として与えられていた。
彼らは、価値の高い順にS、A、B、C、Dのグループに振り分けられる。そして数字が若い程序列が高くなる。
――そう。このS―01は、軍内では言わずと知れた不動のトップなのだった。
S―01は“同時に複数の異能を操る子供”に並々ならぬ興味をそそられている様だ。何はともあれ、思わぬ援護に伝令は内心でホッと胸を撫でおろした。
◆
「ふむ……面白い研究素材が見つかったと喜ぶべきでしょうか。――勝てますか?」
「もちろん」
S―01は即答する。そこに一切の躊躇いは見て取れず、絶対の自信が微かにも揺らぐことは無い。それを見て博士が機嫌を持ち直す。
「いいでしょう。ならば、後はお前に任せます。Aナンバーズを含めた残りの戦力も好きに使って構いません。必ず神獣達と、――“複数の異能を操るという子供”を生かして捕らえて来なさい」
「ああ。わかったよ」
指令は下された。――S―01がマントを翻し天幕を出て行く。
「さて、面白くなってきましたよ! 研究意欲が刺激されますねぇ♪」
静かになった天幕の中、当初の憤慨が嘘の様に博士は上機嫌だった。
――伝令は、何とか命を繋ぎとめられた幸運に感謝し、博士に礼を取り、天幕を後にするのだった。




