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神の盟友  作者: 八重桜インコ愛好家
【第二部】“旅立ち”編
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【第二部】第三十三章 迎撃という名の蹂躙

――村・正面入り口――



 神楽と青姫、稲姫が敵軍を迎え撃つため村の正面入口に行くと、長老や団長達が既に待機していた。


「神楽、来たか」


 二人にはそれぞれ二体の神獣がついている。どの神獣も歴戦の強者だ。これから大軍を寡兵で迎え撃つというのに、自信を(みなぎ)らせる顔からは、一片の(かげ)りも感じられない。


「お待たせしてすみません。――敵は?」

「もう、そこまで来ておる」


 富岳が(あご)で指す先には、敵が今まさしく到来し、布陣を整えていた。長距離の遠距離魔法なら届くだろう距離だ。


 敵軍の中、特に身なりのいい者が隊列の中を抜け、前に出る。おそらくはこの二百人程度の中隊長だろう。



「“(けもの)()れ合う土人(どじん)共”に告ぐ。今すぐに戦闘行為を中止し、(こうべ)を垂れて獣共を差し出せ。さすれば、命だけは助けてやらなくもない」


 遠目からでも分かる。敵はこちらを(あなど)っている。これから戦闘を繰り広げようというのに、中隊長だけでなく、隊全体が弛緩(しかん)した空気を(まと)っている。


 神楽達三人と神獣六体の少数に対し、敵側はおよそ二百名を(よう)するのだから、容易に押しつぶせると考えているのだろう。


「貴様らは、我らや神獣様達の逆鱗に触れた!! ただの一人として、生きて帰れると思うな!!」


 長老富岳の返答は、皆――“御使いの一族”や、一族と関わる妖獣全体の総意だった。富岳、団長、神楽――そして、神獣達の戦意が急激に膨らむ。



「そ、総員攻撃を開始せよ! 敵は少数だ!! 一気に押しつぶせ!」


 神楽達精鋭の放つ覇気に気圧され、中隊長が戦列をかき分け奥に引っ込んだ。



――そして、先端は開かれた。



 敵陣から数多の魔法が飛んでくる。――そして、その(ことごと)くが、神楽達に至る前に無効化された。


 稲姫の固有技能<魔素操作>の広域展開だ。魔法を構成要素である魔素に分解し、稲姫が吸収する。


「ほぉ……凄い力だな。初めて見たぞ」


 初めて稲姫の力を目の当たりにする神楽以外が、目を見開き稲姫を見る。稲姫の顔にいつものような得意気な様子はなく、ただ真剣な眼差しがそこにあった。


 敵陣からは混乱のどよめきが起こり、こちらにまで漏れ聞こえてくる。



「敵の退路を塞ぐ。――青姫!」

「承知じゃ、我が君!!」


 神楽と青姫が片手を突き出し、瞑目(めいもく)しながら集中する。そして、二人同時に目を見開き――



「「<蒼炎(そうえん)>!!」」


 敵を左右、背後から押し包む様に、蒼い炎の壁が立ち上る。蛟の<荒天招来>は今や解除されているが、余韻(よいん)で未だに雨は降りしきり、風は吹きすさんでいる。その中で、一切の翳り無く蒼の炎が壁となって立ちはだかった。


 敵陣で混乱が生じる。なんとか蒼炎からの脱出を試みようとするが、魔法は効かず、味方に押し出されて蒼炎に触れた者は、同色の炎に包まれ、忽ち燃え尽きた。



「がっはっは!! これじゃ、儂らの取り分が無くなってしまうわ!!」

「本当ですな。団長として遅れを取るわけにも行かぬ。――長老、我らも行きますぞ!!」

「あいわかった!!」


 敵の混乱を突き、団長と富岳が、神獣達と共に敵陣に斬り込む。


 激しい白兵戦が繰り広げられた。


 敵陣は大混乱に陥った。左右背後を蒼炎で塞がれ、陣中には寡兵(かへい)なれど、卓越した強者が縦横無尽に駆け巡る。


 唯一の逃げ場と思える、人間の子供と妖獣の女子(おなご)二人しかいない前方に敵が押し寄せてくるのは当然のことだったのだろう。



――だが、それはいささか甘すぎた。



「青姫。稲姫を頼む」

「承知じゃ!」


 こちらに押し寄せる敵軍を前に、神楽が一人、歩いて向かう。



――<闘気解放> 


 琥珀の技能により、周囲から取り込んだ気を身の内で練り上げ、肉眼で視認できる程の濃厚なオーラとして身に纏う。


――<水刃(すいじん)


 蛟の技能<水操作>により生成した鋭い水の刃を幾つも自身の周囲に浮かべる。


――<蒼炎拳(そうえんけん)


 青姫の技能<炎操作>により、拳に炎を纏わせる。


――<魔素操作>


 稲姫の技能<魔素操作>により、周囲の魔素をかき集めて水刃と蒼炎拳の強度を上げた。



――皆の力を同時に行使する神楽に敵はいなかった。



「な、何だこいつは――」

「ば、化け物……」


 神楽と接敵した敵兵は漏れなく(かばね)へと成り果てる。


――蒼い炎を纏う拳に触れた者は忽ち燃え尽き

――蹴りをくらったものは、その異常な脚力で骨ごとへし折られ

――距離を取る者は、神楽の意思の下周囲を縦横無尽に飛び交う水刃に斬り刻まれた。


 敵は、退路なんて初めから無かったのだと(ようや)く理解する。最も安全と思われた前方こそが、最も危険な“死地”だった。


 戦意を喪失する敵にも、神楽達は一切の容赦をしなかった。自分達だけでなく、友である妖獣達までをも侮辱した、――そして、害を成しにこの地に無遠慮に踏み込んできた愚か者共にかける容赦は、一切持ち合わせていなかった。



――戦場に静けさが戻るまで、()れ程の時は要さなかった。



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