【第二部】第二十七章 “青鷺”青姫
――神盟旅団本部・外――
富岳から“謎の集団”襲来に備えた非戦闘員の避難準備や迎撃準備の下達があり、神楽達神盟旅団員は、団長の指示の下、迎撃準備のために皆が各々行動を開始する。
神楽、琥珀、稲姫も準備のため、神盟旅団本部の外に出てきていた。
「襲撃は明後日。俺達への指示は、『縁を結んだ神獣に協力を仰げ』だったな」
「あの二人を呼ぶにゃ?」
神楽は頭を悩ませながらも、
「う~ん……巻き込みたくないんだけど、そうも言ってられなさそうだしな。声を掛けるだけ掛けてみるよ」
「誰でありんすか?」
稲姫が首をかしげながら神楽に問う。
「俺と“縁を結んだ”残りの二人――“青鷺の青姫”と、“水神の蛟”だよ」
「主様、琥珀ちゃんやわっち以外とも縁を結んでたでありんすか!?」
稲姫が非難がましい目で神楽をねめつける。まるで浮気者を追及するがごとしだ。
――特に“青姫”と呼ぶ方は、自分と同じ“姫”を名前に含んでて、スゴく気に入らない。
「にゃはは。稲姫ちゃん、ご主人を許してあげて欲しいにゃ。二人は稲姫ちゃんよりも前に縁を結んでたにゃ」
「むぅ~……もうこれ以上はいないでありんすね?」
「ああ。俺が縁を結んだのは、これで全員だよ」
別に悪いことをしている訳では無いと思うのだが、神楽も他にはいないとありのままを答える。
「普通は、こんな何人もとは縁を結べないにゃよ。大体一人と結ぶのが限界で、才能のある人が複数人と結べるにゃ。ご主人は天才にゃよ!」
琥珀が腰に両手を当ててドヤ顔だ。神楽が誇らしいのだろう。
「実は、稲姫と縁を結ぶ時は、そういう意味で怖さもあったんだよな。『既に三人と結んじゃってるけど大丈夫か?』って。――まぁ、失敗しても縁を結べないだけで特に何が起きる訳でも無いんだけどさ」
「問題大有りでありんすよ! わっちと結べなかったらどうするつもりだったでありんすか!?」
神楽は笑いながら言うが、稲姫としては冗談じゃない。稲姫の方からお願いして縁を結んでもらったから自分勝手なことを言っているのはわかってるが、感情が言うことを聞かない。
「まあまぁ。無事縁を結べたんだし、結果オーライにゃよ!」
琥珀が神楽と稲姫の肩をパシパシ叩き、明るく言う。こういう時、ムードメイカーの琥珀がいると助かるな。神楽も同調した。
「うんうん。『みんな仲良く』だ! じゃあ、早速二人に会いに行こうか」
◆
「二人はどこにいるでありんすか?」
「青姫の方は実家の里に帰省中で、蛟はいつもの湖にいるだろうな」
「近いのは湖の方にゃね。じゃあ、蛟の方から行くにゃ?」
「そうしよ――」
「我が君~!!」
神楽が是と返そうとする間際、上空からこちらに声が掛かる。
「おお、噂をすればにゃ」
琥珀が視る先に稲姫も目を向ける。そこには――
「おお! 青姫!! ちょうどよかった! 後で呼びに行こうかと――わぷっ」
「会いたかったのじゃ! 会いたかったのじゃ! 我が君~!!」
綺麗な青い翼を生やした女の子が宙に浮かんでいた。青髪をお団子にまとめ、華やかな着物を身に纏っている。
可愛らしくもどこか妖艶さを感じさせる色気を放つ女の子は、神楽を見つけるとすぐさま胸元にダイブを敢行した。女の子を抱き留めた神楽が尻もちをつくのを見た瞬間、稲姫の頭が急速に沸騰する。
「主様に何するでありんすか! 離れるでありんす!!」
「? 我が君、この“ちんちくりん”は何じゃ? 初めて見る顔じゃが」
「ち、ちんちく――」
稲姫と青姫が目を合わせた瞬間、二人の間にスパークが迸る。一瞬の邂逅で悟ったのだろう。――自分達は、大切なものを奪い合う“ライバル”だと。
「まぁまぁ。――青姫ちゃんは、いつこっちに戻って来たにゃ?」
「今着いたばかりじゃ。この村に怪しいやつらが向かっていると聞いて、『我が君に何かあってはたまらん!』と、いてもたってもいられなくてのぅ」
青姫は抱き付いたまま神楽の胸元を“のの字”でなぞる。稲姫としては、今こそが『いてもたってもいられない』。最優先事項とばかりに青姫を引きはがしにかかった。
「離れるでありんす!」
「い、嫌なのじゃ~!」
稲姫が強引に神楽から青姫を引っぺがす。神楽は襟を正し――
「青姫。明後日の昼には、この村に襲撃者が来るとのことだ。――危険だから巻き込みたくは無いんだが、よければ力を貸してくれないか?」
「わらわと我が君の仲ではないか。水臭いぞ? もちろん協力するのじゃ! そのつもりでここまで来たのじゃしな」
神楽は申し訳無さそうにしているが、青姫は二つ返事で了承する。
――こうして、青姫が神楽達に合流した。




