【第二部】第二十一章 そしてエクスプローラーに
――トニトラス山脈・山道――
「無事に解決してよかったな」
「白巌には反省して欲しいにゃ!」
「たぶん無理でありんすよ、アレはもう」
アレン達はガラート村を出て、元来た山道を下っていく。生意気な白巌に腹を立てる琥珀を稲姫がなだめる――というか、気にしても無駄だと諭す。稲姫は既に白巌を見限っている様だ……。
外から来て好き放題やっていたからな。山道で行商人を追い返したり、村の民家を巨石で潰したり。俺達が去った後も問題を起こさないといいが――
「まぁ、面白い奴ではあったな。裏表無いのは長所でもあるからな」
「ご主人は甘いにゃ!」
「そうでありんす!」
「す、すまん……」
白巌をフォローしようとしたら二人から大ブーイングを食らった。――思ったよりも根は深そうだ。これ以上はやめておこう。
◆
――首都リムタリス――
その後、アレン達は無事に山を下り、野宿を挟みながら東街道を徒歩で戻って、ついに首都リムタリスに帰還した。
「おお! なんだか久しぶりな気がするにゃ!」
「出店でお菓子を買うでありんすよ!」
商店街で琥珀と稲姫がはしゃぐ。例のごとく、余計なもめ事を起こしたくないので、二人には耳としっぽを隠してもらっている。
「少しだけだぞ?」
そう言えば財布の中が寒いんだったと思い出し、アレンは出店でいくらかのお菓子を二人に買って、目的地を目指す。
「どこに行くでありんすか?」
「もちろんエクスプローラー協会だよ。依頼の達成を報告しないとな」
稲姫と琥珀を連れて、アレンは西区にあるエクスプローラー協会に向かった。
◆
――エクスプローラー協会――
「あ、いらっしゃ――」
「あ! てめぇはあの時の! どの面下げて来やがった!」
アレン達が中に入った途端、柄の悪い奴ら数人に囲まれる。――これはアレだな。前に啖呵を切って挑発した奴らが根に持ってるんだな。アレンは思い当たることがありすぎて、深くため息をつく。
「なんだ、その態度は!」
アレンを取り囲んでいた奴らの一人がアレンの肩に手をかけようろするが――
「触れるな」
紫電が瞬き、男の手が弾かれる。――アレンの周囲を紫電が舞っていた。雷牙の<雷操作>だ。早速役に立ってくれて助かる。
「な、なんだこいつ――」
男が弾かれた手を抑え、後ろに一歩引く。周りの奴らも及び腰で、フロア内からどよめきが起こった。そんな時――
「何してんの! やかましい! ――おや、帰ってきてたのね。こっちに来て」
二階から支部長のイザベラが大声で騒ぎを制止する。アレン達は手招きされ、そのまま二階の支部長室へと向かった。背後には、静かになったフロアで男の忌々しそうな舌打ちが響いていた。
◆
――支部長室――
「お疲れ様。――その顔だと、依頼は上手くいったようね」
「はい。化け物の正体も分かりましたし、これからは行商人達を襲わないと約束も交わしてきました」
アレン達は事の経緯をイザベラに報告する。秘書がイザベラや俺達にお茶とお菓子を出してくれた。稲姫が喜んでクッキーを食べている。
「なるほどね……まさか、そんなことになってたなんて」
「妖猿達は、東の方で仮面の怪しい奴らに住処を追い出されたようです。――支部長は、そいつらのことを何かご存じないですか?」
イザベラが考え込みながら答える。
「いえ、知らないわね。うちの管轄じゃないと言うのもあるけど、向こうの支部からもそんな報告は入って来てないわ」
「そうですか……」
アレンは落胆を隠せず落ち込む。もしかしたらと思っていただけに、当てが外れた感じだ。
「貴方とも因縁があるようね。――それはそうと、依頼、お疲れ様。試験は満点の合格よ」
イザベラが笑顔で告げる。
――そうなのだ。この依頼は、エクスプローラー認定試験でもあったのだ。
「それでは――」
「ええ。貴方を正式なエクスプローラーと認定するわ。――おめでとう、これからも頑張りなさい」
イザベラから手を差し出され、アレンは握り返した。
――そうか、ついに俺がエクスプローラーに……。
アレンはようやく自分の目的のスタート地点に立ったと安堵する。
――あの子を探しに行ける。それに、楓達の様子も確認しに行きたい。何はともあれ、これでようやくだ。
◆
「デバイスはそのまま使って。――それと、これは今回の依頼達成の報酬ね」
「え? 報酬を貰えるんですか?」
「これは試験課題である前に、正規の依頼だったからね。遠慮なく受け取りなさい」
イザベラから布袋を受け取る。アレンは口紐を解いて中を見るが――
「おお! こんなに!」
はしたないと思いつつも声を上げて喜んでしまった。――金欠だったからな。
「ご主人! お魚買うにゃ!」
「お菓子もでありんす!」
琥珀と稲姫もアレンの両側から袋を覗き込み大喜びだ。今晩は奮発するか!
「喜んでもらえて何よりだわ。――それじゃ、後はこの子から話を聞いておいてね」
「よろしくお願いいたします、アレン様」
イザベラに付き添っていた秘書がアレン達に、エクスプローラーのルールについて一通り教えてくれた。イザベラは実務に戻った様だ。
「――という訳でございます。ご不明な点があれば、いつでも私や受付の者に聞いてください」
「ご親切にありがとうございます。そうさせてもらいますね」
レクチャーが終わり、アレン達は支部長室を後にしようとした。部屋を出る間際――
「どこか、行きたいところはあるのかい?」
支部長机で執務をしているイザベラに声をかけられた。エクスプローラーになったことだし、どんな目的があるのか気になるのだろう。
「昔の同胞や、――とある人を探したくて。どこにいるかもわからないんですけどね」
アレンは苦笑いで答える。何とも不明瞭な目的だ。
「訳ありみたいだね。深くは聞かないでおくけど、何か困ったことがあれば声をかけな」
手をヒラヒラと振り、イザベラは机仕事に戻った。
「ありがとうございます、その時はよろしくお願いします」
――そうして、アレン達は支部長室を後にした。
◆
「想像以上に優秀でしたね……まさか、あの依頼を解決にまで導くなんて」
「そうね。――ふふ。ほんと、あの人みたい」
――秘書とイザベラは、楽しそうにアレン達の前途を祝すのだった。




