【第二部】第十九章 会得 <雷操作>
――ガラート村・村長宅――
「なるほど……アレン、其方は我ら妖獣の力を使えると申すか」
「俺の出自――“御使いの一族”の<神託法>という権能で使えるみたいだけどね」
アレンは雷牙に自らの事情を語って聞かせた。雷牙は“御使いの一族”の存在を知らず、目を見開き驚いていた。
「我らも人とは長く共にあるが――村人で我らの力を使える様になったものは一人もおらんな」
そして雷牙はふと気になったのか――
「アレン、我の力は使えるのか?」
こんなことを聞いてきた。
「さすがに無理じゃないか? “縁結び”ってのが要るみたいだし」
アレンも、いやいやそれは無いだろと首を横に振るが――
「主様。主様はわっちと縁を結ぶ前から力を使えたでありんすよ?」
「そうにゃ。――大事なのは、お互いの“信頼”にゃ。“縁結び”は、信頼で開いた“門”を拡げて、安定化させるためのものにゃ」
稲姫と琥珀がアレンにそう教えてくれる。(門?)など疑問は尽きないが――
「とにかく、雷牙の力を使えるかもしれないってことか。じゃあ、試してみるか――」
雷牙、琥珀、稲姫が見守る中、アレンは目を閉じ集中する。
――思い描くは雷牙の紫電。雷牙がその身に纏っていた紫色の雷光を、身の内より発するイメージを描く。すると――
自身の中で扉が開く気配を感じた。開いた扉から、今までに覚えの無い力の流入がある。
――アレンはその力を受け入れ、身を委ねた。
◆
「馬鹿な……本当に我の力を使うとは」
「さすがは主様でありんす!」
「やったにゃ!♪」
アレンは雷牙達の声に目を開ける。
――すると、自身の周りを紫電が歓喜する様に狂い舞っていた。意識して抑え込むと紫電が消えた。
「それは<雷操作>。周囲の雷属性の魔素を操り、紫電として自在に操ることができる」
雷牙の説明を聞き、アレンは再度紫電を発生させ、自身に纏わせる。
「――凄いな。<魔素操作>でもある程度はできるんだろうけど、これはイメージした瞬間にすぐ発動できる。汎用性が高そうだ」
アレンは喜び、紫電を出しては消してを繰り返す。
「主様のバカ……」
「ち、違うぞ稲姫! <魔素操作>だってすごい力だ。何度も助けられてるし!」
そんなつもりは無かったのだが、自身の<魔素操作>をダメだと言われた様に受け取ってしまった稲姫がいじけてしまった。しっぽをイジイジしてアレンと目も合わせてくれない!
「にゃはは。稲姫ちゃんの力は、あれはあれで危険極まりないにゃ……」
琥珀が稲姫をフォローしてくれる。――というか、本当に恐れている様だった。
琥珀は後ろから稲姫に抱き付いて頭をよしよしする。気持ちがいい様で、稲姫の狐耳がペタンとする。
――何はともあれ、アレンは雷牙の<雷操作>を会得した。
◆
「――――っ」
「ようやく目が覚めたか」
そうこうしている内に、そばで布団に寝かせていた白巌が目を覚まし、上半身を起こした。――そして、周りを見回して察する。
「チッ!――――俺の敗けか……」
白巌は布団を掴む手が震えている。――口では敗けを認めてても、やはり、やり場の無い悔しさを受け止めるので精一杯の様だ。
「俺の部下達はどうしてる?」
「其方が投石で壊した民家を、村人と共に直しておるよ」
「そうか……」
白巌は立ち上がり、雷牙達の前まで移動すると、どかっと座り、胡座をかき腕を組む。
「敗けを認めよう。――好きにしろ」
目を閉じ、白巌は静かに、己の身に下されるだろう裁きを待つ。しかし、雷牙は――
「――ふん。貴様の首など欲しくも無いわ」
「生かすというのか? ――甘いな」
「交わした約束は、『我が勝ったら我らや村人に手を出すな』だ。それさえ守れば他には要らぬ」
しばし雷牙と白巌が睨み合うが――
「ふっ……ははは! ――気に食わない犬っころだが……一応、感謝はしておこう」
「犬っころではない。我は妖狼――雷牙だ」
「そうだったな――雷牙。俺達は今後、お前達や村人達に一切手を出さないことを誓おう」
片手を床につき、白巌が雷牙に跪く。
――プライドの高い白巌が膝をついたことにアレン達は驚くが、……ともかく、これで一件落着かな?




