【第二部】第十四章 妖猿の襲来
――ガラート村・入口――
村長宅を出て、アレン達は周囲を見渡す。村の女子供は家の中に逃げ込み、男連中はそれぞれに武器を持ち、村の四方に散らばっていった。
村の周囲は木の柵で囲まれており、柵の間から木の杭を外に向けて設置することで外敵の侵入に備えていた。――だが、見るからに心許無い。
雷牙の連れていた妖狼達も村の男連中について散らばっていく。当の雷牙はと言うと――
「何度来ても無駄だ。まだわからんのか、猿共――」
村の入口付近に狼化した雷牙と妖狼数体が陣取っている。その先には――
「あれが“妖猿”か……」
アレン達が見据える先、白い体毛に覆われた猿達がいた。雷牙を警戒して、村の中に入って来れない様だ。
「う、うわぁ!」
「キキィ!」
「グルルルルッ――!」
そうこうしてる内に、村の至るところで交戦が始まる。村の入口には雷牙がいるので妖猿達も攻めあぐねているが、守りの薄い側面や後方から攻めかかってきてるのだろう。
「ご主人!」
「ああ! 琥珀は好きに動け! ヤバそうなところを援護してやれ! 稲姫は俺と一緒に!」
「了解にゃ!」
「わかりんした!」
――アレン達もすぐに妖狼や村人の援護に向かった。
◆
「くっ……あいつら! 遠くから岩を投げてきてるのか!」
アレン達が援護に向かった村の後方では、岩が降り注いでいた。
「く、くそう!」
「や、櫓だ! 櫓から矢を放て!」
「真っ先に潰されちまったよ!」
村人達の怒号が聞こえてくる。――辺りを見ると、村人の言う通り、櫓は潰され、近くには投石されたと思われる岩が転がっていた。
妖狼達は、雷牙には劣るが雷を扱える様で、妖猿達に向かい雷で遠隔攻撃をしている。――だが、樹に上手く隠れられて、中々有効打を与えられずにいる様だ。
「主様、危ない!」
稲姫が叫ぶと同時、アレンは危機を察知し、すぐさま横っ飛びに転がる。
――地響きと共に、先程までアレンのいた場所に岩石が落下した。
「あんにゃろう……」
アレンが岩の発射位置を探すため柵の外を見ると、背の高い樹の枝上で妖猿が手を叩いて喜んでいた。
(そうか。そんなに面白かったか。俺の避ける様が……)
――<神託法>・<肉体活性>
琥珀の技能を使用し、アレンは周囲の気を取り込み、肉体を強化する。身体に過剰なまでの力が漲るのを感じる。
アレンは先程投げ込まれて地面に少し埋まっている岩を片手で持ち上げる。
「――いい声で鳴いてみせろ」
アレンの手から岩が豪速で放たれる。放物線などという甘いものではなく、ひたすら一直線に、先程手を叩きながらはしゃいでいた妖猿めがけて飛んでいく。
遠くでも分かる激しい破砕音と共に、岩が猿のいる樹に激突する。
――メキメキという音を鳴らし、樹が幹から折れて横に倒れた。
「キ、キキィ!?」
「キキ!?」
妖猿達の混乱が伝わってくる。慌てふためいて樹の枝から落ちている者もいた。
「――チッ! 外したか……」
アレンは妖猿への直撃コースを狙っていたが、狙いがズレて幹に当たってしまったことが悔やまれる。
「じゃあ、次だな」
アレンは、妖猿達に投げ込まれ近くに転がっていた岩を手に取った。
◆
――妖猿陣営――
「キ、キキ!!」
「キィ!?」
妖猿陣営はパニックに陥っていた。いつもの様に、妖狼や村の人間達に嫌がらせをしに来ただけなのに、おかしな奴がいる。
異常な怪力で岩を次々と投げつけてくる人間により、妖猿達は樹上からの退避を余儀なくされていた。
――しかし、妖猿は本当の恐怖をこれから思い知ることになる。
「――キァァッ!?」
先程まで近くにいた仲間から悲鳴が聞こえたと思ったら、忽然と姿が消えていた。
「あんまりオイタしちゃダメにゃよ?」
妖猿が思わず声のした方を見ると、――“悪魔”がそこにいた。
鮮やかなオレンジ色の髪。耳としっぽの生えた可憐な少女に見えるが、少女の通ってきた道には、幾体もの同胞が転がっている。
金色の両眼は瞳孔が縦に割れ、身体から肉眼でもわかる程の凄まじいオーラを放っている。
――妖猿は、自らの運命を悟った。




