【第二部】第十三章 東から来た妖猿
――ガラート村・村長宅――
「さて、何から話そうか……」
「ここ最近、『化け物が出る』って都市で噂になってるんだが、それは雷牙のことか?」
雷牙がどこから話すべきか迷ってる様子だったので、アレンはストレートに聞いてみる。
「ん? 我は、お前達以外には何もしていないぞ? ――ああ、そういうことか」
雷牙には心当たりがあるのだろう。腑に落ちた様子だ。
「話の核心だな。その“化け物”は、今、我々と交戦中の者達だ。――恐らくはな」
雷牙が少し苦々し気に言う。
「誰と戦ってるにゃ?」
「山道には狼のモンスターしか出なかったでありんすよ?」
琥珀と稲姫も話に入ってくる。アレンとしても気になるところだ。雷牙は重い口を開く。
「――東から来た妖獣、“妖猿”だ」
◆
「奴らの住処は本来、ここより遥か東にあるのだ。――どういう事情か、最近ここらに出没するようになってな」
雷牙はそこまで言うと、茶を一杯飲み干しお盆に戻す。そばに控えていた村長夫人がすぐに新しいのを注いでくれた。雷牙は会釈して湯飲みを受け取り話を続ける。
「この山に住む我らや村の住人を襲う様になったのだ」
「雷牙様達が守ってくださって、何とか無事でいられるのでございます」
雷牙に続き、村長が言葉を継ぎ足す。
「何故襲うんだ? 縄張り争いみたいなものか?」
「そんなところだ。――いい迷惑だ」
雷牙の機嫌が悪い。当たり前だが、だいぶ腹を立ててるな。
「妖猿達も住む場所があればいいんだろう? 話し合えないのか?」
アレンは皆が納得できる落としどころを探そうとするが――
「話し合おうにも、話にならんのだ」
「言葉が通じないにゃ?」
琥珀も疑問に思ってるようだ。
「いや、会話はできるのだ。だが如何せん、『この土地は頂く』の一点張りでな」
「そりゃ酷い」
(弱肉強食という言葉はあるが、外から来た奴にそう言われたらキレるな。俺でも)
アレンは雷牙や村人達に同情する。
「それで、どっちが優勢なんだ?」
「遺憾だが、あちらの方が優勢だな。――個々の力はそれ程でもないが、何分、奴らは数が多いのだ」
雷牙が言い、村長夫妻がうなだれる。
「ご主人、何とかしようにゃ」
「わっちも戦えるでありんすよ」
琥珀と稲姫は、雷牙達や村のために戦いたがってるな。アレンとしても異論は無いが――
「ここに来る前、俺達を襲ったのはどうしてだ?」
一応、理由は聞いておきたかった。
「ここが戦地と知っていて、関係の無い旅人を迎えるわけにもいかないだろう」
雷牙の言い分も尤もだな。
「其方らをここに呼んだのは、琥珀殿と稲姫殿が我と同じ“神獣”で、奴らに襲われても太刀打ちできるだろうというのと、――妖獣と連れ添う其方に興味があったからだ」
雷牙がアレンを見据える。
「やっぱり、妖獣と人間が交流するのは珍しいか?」
「むしろ、普通は敵対するであろう? 我らが特殊なのだ。――と、其方らに会うまでは我もそう思っていた」
雷牙は面白そうに、くつくつと笑う。
「だから興味があったのだよ。其方らの話も聞きたいところだが――」
――雷牙が話してる途中で、村中に警鐘が鳴り響く。
「奴らだ。――全く、いつも邪魔をする」
雷牙が億劫そうに立ち上がる。
「其方らは客人だ。終わるまでここにいるとよい。――猿どもには指一本触れさせんよ」
――アレン達の返事も聞かずに、雷牙はさっさと家を出て行ってしまった。
「ご主人!」
「主様!」
琥珀と稲姫が真剣な顔でアレンを見つめる。――アレンとしても、気持ちは同じだ。
「ああ、俺達も行くぞ。――だが、まずは敵の戦力調査だ。俺達が加わってもどうしようもないなら、増援を手配するしかないからな」
「はいにゃ!」
「わかりんした!」
――琥珀と稲姫を引き連れ、アレンも村長宅を後にした。




