【第二部】第十章 妖獣と半妖
――リムタリス東街道――
「そう言えば、琥珀は何かパワーアップしたりしないのか?」
「ご主人。そんな簡単にパワーアップはできないのにゃよ?」
トニトラス山脈に向けて首都リムタリスから東の街道を進んでいるところ。一泊野宿して、アレン達は再び移動を開始していた。
道中、稲姫のしっぽが増えたこともあり、アレンは興味本位で琥珀に聞いてみたのだが。
「そっかぁ~、そりゃ残念」
「むむむ……うちだって、もっと強くなれるにゃ! ……たぶん」
琥珀が涙目で悔しそうにうなる。――ちょっと無神経だったかもな。
「ごめんごめん。稲姫を見てたらそんなものなのかなと思って聞いてみただけなんだ。気にしないでくれ」
「むぅ~……ご主人を驚かせてやりたいにゃあ」
気にするなと言われてもやっぱり気にしてしまうのだろう。でも、こればっかりはなぁ……。
「そう言えば、琥珀の家族とかはどうしてるんだ?」
「うちに家族はいないにゃ」
妖獣は、獣が妖力を得て至る、いわば進化した種族だ。ここで言う妖力とは、この世界で魔素と同義であり、獣が長い年月を経て魔素を溜めると妖獣に、その中でもさらに力をつけた者が神格化し、“神獣”と呼ばれるようになる。
「わっちと琥珀ちゃんは、そうして生まれたでありんす」
「他には、妖獣同士が子を作って生まれるパターンもあるにゃ」
――琥珀と稲姫は、アレンにそう説明してくれた。
「ちなみに、うちと稲姫ちゃんは神獣にゃ」
「なるほど……悪い。また無神経なことを聞いちまったな」
今日は失言ばかりだなとアレンは反省するが――
「いいにゃ。別に気にしてないにゃ。ご主人や稲姫ちゃんがいれば寂しくないにゃ」
「わっちも。むしろ、憐れまれる方が嫌でありんすよ」
「そうか……それならいいんだが」
そこでいったん会話が途切れるが――
「妖獣って、人との間に子供を作ったりはできるのか?」
ふと気になったことをそのまま聞いたアレンは、今日最大の失言に気付かなかった。
◆
「できるにゃ! ご主人、うちと作るにゃ!」
「琥珀ちゃんずるい! わっちもわっちも!」
――物凄い勢いで二人に迫られた。
「ち、違うんだ! 二人があまりにうまく人に化身するから、ふと気になっただけなんだ!」
アレンは慌てて二人に理由を説明するが――
「妖獣と人の間でも子は作れて、生まれた子は<半妖>と呼ばれるにゃ」
「半妖はわっちらと同じように、体内で魔素を持てたり、特殊な技能を持てるでありんすよ」
「なるほど……そうだったんだな」
アレンはうんうんとうなずく。これで話は終わりとばかりに切り上げようとするが――
「だからご主人! うちと作るにゃ!」
「わっちとも!」
凄くいい笑顔で二人からアプローチされた。
「い、今は色々やらなきゃいけないことがあるだろ? それに、そんな大事なこと、簡単に決めちゃダメ――」
照れ隠しもあり、アレンは赤い顔で言い訳を続けようとするが――
「じゃあ! やること終わったら作るにゃ! 約束にゃよ!」
「わーい!♪ 早く終わらせるでありんすよ!」
――どうやら、二人の中では決定事項になってしまったようだ。
(この世界って、重婚はいいのかな?)
などと現実逃避気味に考えながら、アレンはご機嫌な二人と一緒に街道をひた歩くのだった。




