【第二部】第八章 祝! 二本目!
――エクスプローラー協会の外――
「ご主人! かっこよかったにゃ!」
「昔の感じが戻ってきたでありんす!」
「いや、大人気無かったと、少し反省してるんだが……」
協会内でエクスプローラー達に啖呵を切り、外に出てきた直後、アレンは稲姫と琥珀に腕を組まれる。――どうやら、二人のお気に召したようだ。
「でも、どんな危険があるかわからないからな。備えはしっかりしておこう」
『トニトラス山脈にあるガラート村の調査』がイザベラからの依頼であり、今回の試験課題だ。「化け物が出る」と噂になっており、行商人が寄り付かなくなってるとのことだ。今回、山道を通り村の様子を確認して来ることが目的となる。
「じゃあ、お買い物にゃ♪」
「商店街に行くでありんす!」
――琥珀と稲姫に連れられ、アレンは都市の中央にある商店街に向かった。
◆
――商店街――
「これと、これと、これと……これ!」
琥珀がこれでもかと食料を選ぶ。
「おいおい……さすがに持てないだろ」
それに、俺の財布がヤバい……ほんとにそろそろ。
「これくらいかな?」
アレンは、琥珀の選んだ食料の中から必要な量だけを買い込む。琥珀は不服そうだが、ここは我慢してもらうしかないな。
「主様! あれ買って!」
稲姫が嬉々として指さす先には、お菓子の屋台があった。
「少しだけだぞ?」
「ずるい! 稲姫ちゃんだけ!」
「琥珀も好きなのを選んでこい」
二人が喜びいさんで屋台に向かう。
『おいおい、お嬢ちゃん。ピクニックじゃないんだぞ?』
ふと、協会でエクスプローラーに言われた言葉が頭をよぎり、アレンは苦笑いする。――まぁいいか。二人が楽しそうなら。
◆
――リムタリス東門――
「じゃあ! いざ、出発にゃ~!♪」
元気な琥珀に続き、アレンと稲姫は早速、目的地に向かうことにした。時刻はまだ午前、天気もよく、絶好の冒険日和だった。
「主様主様。どれくらいの距離があるでありんすか?」
「結構あるな。今日は野宿して、明日の昼くらいにトニトラス山脈の麓につく感じだな」
「わかりんした!」
野宿と聞いて嫌がるかと思ったが、全然そんなことは無かった。むしろ、楽しそうだ。
「そういえば、稲姫は身体強化系の技能は無いのか?」
ふと気になったので聞いてみる。アレンと琥珀は、琥珀の技能<肉体活性>で強化できるから遠出も問題無いだろう。でも、稲姫はどうだろうか。
「う~ん……身体の中の魔素を操作して強度を高めることはできるでありんすが、今の力だとあまり強化できないでありんす」
稲姫が残念そうに言う。そうなのだ。稲姫や琥珀の様な妖獣は、魔素で身体を構成している。もちろん、肉体を形作る物質は必要で、食事を取ることも大事だ。
――だから、魔素があればもっと力を増せるのだが……。
「稲姫は<魔素操作>ができるだろ? 周囲の魔素を自分の身体に取り込めないのか?」
「もちろんできるでありんすよ? だけど、少しずつしか取り込めないでありんす。一度に大量に取り込んでも、外に出て行ってしまうでありんすよ」
なるほど……それで苦労してるのか。
「今はどれくらいの魔素が溜まってるんだ?」
「もうそろそろ、しっぽがもう1本増えそうでありんす……あっ!」
稲姫が急に大声を出し、立ち止まる。アレンと琥珀も止まった。
「ど、どうした!?」
「大丈夫にゃ?」
いきなりの大声にアレンが驚きながら、琥珀が心配そうに稲姫に声を掛けるが……
「き、来ちゃう……!」
ハァハァと息遣いも荒く、赤い顔で稲姫はその場にうずくまる。アレンは慌てて駆け寄ろうとするが――
――ぽんっ!
「ふにゃあ」
小気味いい音と共に、稲姫が気の抜けた声を漏らす。
稲姫を見ると――
「――は、生えてるな、しっぽ。二本目」
「おめでとうにゃ!!♪」
まさしくしっぽの増える瞬間に立ち会い呆然とするアレンをよそに、琥珀がめでたいとばかりに稲姫に抱き付く。稲姫はまだ赤い顔で荒い息ながらも、嬉しそうだ。
「はぁ……はぁ……、主様、ほめて?♪」
「お、おう。偉いぞ! よくやったな!」
まるで子供を産んだかのような稲姫の喜び様に、ついアレンも褒めちぎる。稲姫はとても嬉しそうに『ふにゃ』と笑う。
――きっと、そう言うものなんだろう。たぶん……。
◆
その晩の野営は、稲姫のしっぽ二本目記念で豪勢な食事が振舞われた。
琥珀がどこかに凄い勢いで駆けて行ったかと思ったら、イノシシを狩って戻ってきた。そのイノシシをアレンが捌き、三人でボタン鍋を囲んで美味しく食べるのだった。
――もうアレンは深く考えるのをやめた。やっぱりお祝いは楽しまないと!




