【第二部】第七章 カチンと来た
――支部長室――
「あなたにこれを渡しておくわ」
「これは……“デバイス”ですか?」
支部長のイザベラからエクスプローラー試験の課題を伝えられたアレンは部屋から退出しようとするが、イザベラから呼び止められ、ある物を渡される。それは学校で見慣れたものだが、デザインが洗練されていた。
「ええ。エクスプローラー用のデバイスよ。これを使いこなして依頼を果たすのも課題のうちよ」
「なるほど……それでは、遠慮なく」
渡されたデバイスは従来機同様、腕輪型だ。アレンは左腕に装着する。
「使い方はわかるわね?」
「学校で習った程度なら」
「念のため確認した方が良さそうね。マップを開いてみなさい」
イザベラに言われるまま、アレンはデバイスを操作しマップを表示させる。
「結構細かなところまでマッピングされてるんですね」
「ここは都市だからね。これから行くトニトラス山脈は、山道から外れたらほとんどマッピング情報は無いかもしれない」
「なるほど……気を付けないといけませんね」
アレンは神妙に頷くが――
「エクスプローラーにとって、未到達地域のマッピングも仕事のうちだから、機会があればやってみるといいわ。報奨金も出るわよ。……あなたが正式にエクスプローラーになれたらだけど」
「はい。今回は山道を通ってのガラート村の調査なので道から外れない様にしますが、機会があれば是非」
――そうしてアレンは、エクスプローラーの必需品、エンハンスドデバイスを入手した。
◆
アレン達は支部長室を出て階下に降りる。協会内にたむろするエクスプローラー達からの視線にさらされ、居心地が悪い……。
「あ、どうなりましたか?」
受付のお姉さんが気さくに声をかけてくる。
「試験を受けることになりました。これからトニトラス山脈に行ってきます」
アレンがそう答えると、協会内がざわつく。
「あそこは『化け物が出る』って知らないのか……?」
「俺達だって近付かねぇってのに」
「悪いことは言わねぇ、やめときな」
話を聞いていたエクスプローラーの一人が近づいて来てアレンに言う。心配してくれてるのがわかるので、邪険にも出来ない。
「でも、困ってるみたいですし……。それに、試験課題なので」
アレンは頬をかき、無難に答えようとするが――
「大丈夫にゃ! うちがいれば問題無いにゃ!」
琥珀が胸を張って主張する。
「わっちもわっちも!」
稲姫もアピールを忘れない。
「おいおい、お嬢ちゃん達。ピクニックじゃないんだぞ?」
「お気楽なもんだ。泣きべそかいて戻って来なきゃいいがな」
嫌な笑いが協会内に轟く。受付のお姉さんはオロオロとしている。
――普段温厚なアレンも、仲間を侮辱されてカチンと来た。
「あんたらは、震えてここで縮こまってればいい」
「ぁあ!? なんだその態度は!!」
「まだエクスプローラーになってもないガキが!!」
協会内が殺気立つ。
「そこに異常があり、困った状況になってるのに、確かめにも行けない臆病者にはなりたくないので。――失礼します」
――アレンは琥珀と稲姫の手を引き、さっさと協会の外に出る。後にはエクスプローラー達の怒号が鳴り響いていた。
◆
――支部長室――
「あははっ! 面白い子じゃないか!」
「イザベラ様……見てないで止めてくださいよ」
アレンとエクスプローラー達のひと悶着を二階から眺めていたイザベラと秘書は、それぞれに感想を漏らす。イザベラは腹を抱えて笑い、そんなイザベラを秘書が呆れた顔で見ていた。
「いやぁ。礼儀正しい優等生に思ってたが、中々どうして……楽しみじゃないか。この先が」
「ルーカス様を思い出しますね」
「確かにね。――あの人も、今頃何してるんだか……」
イザベラは懐かしそうに目尻を下げ、優し気に微笑む。秘書はそんなイザベラの横顔を、ただ嬉しそうに見つめるのだった。




