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神の盟友  作者: 八重桜インコ愛好家
【第二部】“旅立ち”編
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【第二部】第三章 “青ノ翼”

――宿屋の食堂にて――



 アレン達はギルド“青ノ翼”のエーリッヒ、ラルフ、レインと再会していた。


「あの時も聞いたけど、君のあの力は何? ――あ、答えたくなかったら、無理にとは言わないけど……」


 アレン達にも夕食が運ばれてきて食べ始めた頃、エーリッヒが問いかけてきた。()()()というのは、一昨日の卒業試験でアレンがエーリッヒと戦闘した時のことだ。


「エーリッヒさん達は、俺が卒業試験を受けた理由について、何か聞いてますか?」

「僕らは理事長から、『臨時で卒業試験を受けさせたい優秀な生徒がいるから相手をしてくれない?』としか聞いてないな……」

「……うん、間違いない」


 アレンはエーリッヒの問いに直接は答えず、逆に自分のことについてどれだけ知ってるのか探りを入れてみた。エーリッヒとレインの反応を見る限り、何も事情は聞かされていないようだ。


「まどろっこしいな。何か理由があるのか?」


 ラルフがストレートに聞いてきた。あまり駆け引きとかは好かない性分なのだろう。


 アレンは迷いながらも彼らに話してみることにした。



「卒業試験の数日前、学校の敷地内で、とある集団に襲われたんですよ」


 実際には奴らの目的は稲姫だったが、ここはアレンということにしておく。


「どんな奴らだ?」

「仮面をつけた集団でした。何とか無力化して自警団に引き渡したんですが、その晩、皆一様に収容施設内で死亡したらしくて。――すみません、飯時にする話じゃないですね」


 アレンはそこまで一気に話す。やっかいだとわかれば、これ以上は踏み込んで来ないだろうと考えたのだが、


「知ってるか?」

「……知らない」

「仮面をつけた集団なんて、今までに会ったことも無いね」


――三人ともあまり気にしてないみたいだ。


「ちなみに、どんな仮面だ?」

「隊長格と思われる一人は異なりましたが、他の構成員は皆、同じデザインでした。顔全体を覆う大きさで、白地に黒の模様が描かれていました。……どことなく、道化っぽかったですね」


 アレンが思い出しながら伝えるが――


「やっぱ知らねぇな」

「……仮面をつけたのに遭遇したことがほぼないし」

「だねぇ」


 三人とも知らないみたいだ。


「そんなことがあり、襲撃者全員が原因不明の死を遂げたので、国や学校も事態を重くみて、俺を学校に置いておけなくなったそうです」


「なるほど……大変だったね」

「学校もだらしねぇな。ただの厄介払いじゃねぇか」

「……それに、厄介払いにしても学校側の対応があまりに早すぎて不自然」


 やはり三人とも上位の実力者だからか、こういう荒事にも慣れているのかもしれない。あまり驚いてるような感じを受けない。


「ですので、俺と関わると厄介事に巻き込んでしまうかもしれないので、力の事についてはお話できないんですよ」

「ほう……お前の持つ()が原因で襲われたのか」


――しまった。正確には、狙われたのは稲姫だけど、稲姫のこともできればしゃべりたくない。


「皆さんを巻き込みたくないだけなのでご勘弁頂けたらと。――そう言えば皆さん、いつもすぐ近くにおられるのですか? 理事長に呼ばれて来たとおっしゃてましたが」


「……逃げた」

「逃げたな」

「逃げたね」


 強引な話題転換がバレバレだったのだろう。三人が『しらーっ』とした目でこちらを見るが、一応話題に乗ってきてくれた。


「いや、いつもは遠くにいることが多いんだけど、今回、たまたま仕事の関係でこの国に来てたんだよ。――だけど、時系列的に考えると、僕達が呼ばれたのは、君が襲われたすぐ後ということになりそうだね」

「……同意。移動時間を考えると、そうなる」

「やっぱ、きな臭いばあさんだな。OBで近くにいたから来てやったがよ」


 三人は今回呼ばれたことを不自然に考えているようだ。何か裏があるのかもしれないと。


「皆さんはあの学校の出身だったんですね」


 アレンは気になったので聞いてみることにした。


「ああ。俺とエーリッヒは、だけどな。レインは後から仲間になったんだ」

「……私はまだ若い」


 どことなくレインがむっとしている。整った顔立ちでそんな顔をされると、少しグッと来るものがある。


「主様、変……」


 見ると、隣で稲姫が頬を膨らませていた。もしかしたら、エリスのポジションに就いたのかもしれない……少し今後が怖くなる。



「そう言えば、その子は誰だい? あまり詮索しちゃ悪いと思って聞かなかったけど」

「……それに、その子も」


 レインが指差す先には、アレンの膝の上でくつろいでいる琥珀がいた。今は獣化して猫になってるので、そんなに重くもなく、気にしていなかった。


――実は、稲姫がご機嫌斜めなのも、自分の特等席を琥珀に取られたのが一因だったりする。


「この子は稲姫って言って、俺の仲間です。――で、この子は琥珀」


 そう言いながらアレンは琥珀の背をなでる。琥珀がくすぐったそうに身じろぎした。


「よろしくでありんす」


「変わったしゃべり方をするね」

「……綺麗な髪。羨ましい」

「お前、寮でペットなんて飼ってたのかよ。実はそれで追い出されたんじゃねぇのか?」


 三者三様の反応だった。――ラルフはこう見えて、実は案外真面目なのかも。


「まぁ、彼女達のプライバシーもあるので、あまり話せませんが」


 アレンはさっさと話を切り上げようとするが――


「……彼女()?」


 レインが首をかしげている。――しまった。今日は失言ばっかりだな。


「この子も俺の家族みたいなものですから」


 そう言いながら琥珀の頭をなでる。「みゃぁ♪」と嬉しそうに鳴き、嬉しそうだ。


「……可愛い。その子、欲しい」

「あ、あげませんよ?」


 物欲しそうな視線を琥珀に向けるレインから守る様に琥珀を抱きかかえる。



――隣の稲姫の頬が、またぷっくりした。



「色々詮索して悪かったな。実はお前を待ってたのは、それだけが目的じゃなくて」


 ラルフがそう言い、エーリッヒを見る。


「君を勧誘しに来たんだよ。うちのギルドに入らないかってね」

「……あなた、エーリッヒのお気に入り。私も気に入ったけど」

「お、レインが気に入るなんて珍しいな。気難しいからな」


 まさかの勧誘だった。


「俺、まだエクスプローラーにもなってないんですよ?」

「君なら必ず受かるよ。……でないと、僕の立つ瀬がない」


 エーリッヒは俺が受かると確信しているようだ。


「それに、先程も言いましたが、俺に関わると厄介事に巻き込んでしまいます」

「犯罪組織を相手取るのは結構慣れてるよ」

「だな。まぁ、ちと今回のはやっかいそうだが、いざとなりゃ他所も巻き込みゃいい」

「……私達は強い、それなりに」


 『それなりには余計だ』と三人が笑い合う。アレンはその温かさに惹かれるが――


「実は、俺がエクスプローラーになりたいのには目的があって、()()()()を探したいんです」


 三人が黙ってアレンの言葉の続きを待つ。


「俺、実はある時以前の記憶が無いんですが、その子が自分にとって大事な子だってのは確信してて」


「記憶喪失とはめずらしい」

「……中々いない」

「そいつはお前のこれか?」


 ラルフが小指を立て、レインに払われている。「痛ってぇ!」と騒ぐラルフをスルーし、アレンは話を進める。


「ですので、皆さんとは一緒に行動できません。目的が違いますので」

「その子の居場所はわかってるのかい?」

「いえ、それは……」


 エーリッヒの問いにアレンは首を横に振る。


「人探しか……それも面白そうだな」

「……ちょうど今、取り掛かってる仕事も無いし」

「こいつといれば退屈しなさそうだしな」


 三人で話を進めてしまっている。アレンは焦るが――


「まぁ、こういうのは強要するものでもないからね。君さえよければでいいよ。エクスプローラーになったらでも、その子を見つけてからでも」

「……入りたくなったら、いつでも言って」

「その時はお前の力も教えろよ?」


「ありがとうございます」



――アレンはエーリッヒ達の好意が嬉しく、笑みで返した。



「アレン君は<念話>はできる?」

「いえ、できません」

「……あれは系統外魔法で、適性を持つ方が稀だから」

「うちでもレインだけしか使えないからな」


 魔法は、“火、水、風、氷、雷、土、光、闇の八大属性”とその他に大別される。その他は空間系など特殊なものが多く、その中に、系統外魔法と呼ばれる、精神的な事象を操作する魔法があった。


 <念話>はその系統外魔法で、自分の念を相手に送り会話することができる。物理的距離が離れていても可能だが、精神的に相手を見つけて繋がる必要があり、適性者は限られている。アレンは今までにデバイスの登録情報から試したことがあるが、全然感覚がつかめなかった。


「じゃあ、これをあげるよ。念話の“アーティファクト”」

「あ、アーティファクトって凄く稀少なんじゃ……受け取れませんよ」


 エーリッヒがカバンから取り出したのは、魔法が込められた人工のアイテム――“アーティファクト”だった。アーティファクトは作製できる者が限られており、その稀少価値は高い。

 

 確かにこれがあれば、自由に念話も可能なはずだが、おいそれと貰っていいものではない。


「うちは念話ならレインが使えるし、正直普段から持て余してたんだ。腐らせておくよりいいよ」

「あ、ありがとうございます……」


 アレンは指輪型のアーティファクトをエーリッヒから手渡される。


「……試しに使ってみて」


 レインに言われるまま、アレンはアーティファクトに意識を集中する。指輪型のアーティファクトについた石が光り、<念話>魔法が発動する。アレンは精神力をいくらか消耗するだけで、後はアーティファクトにより魔法が自動的に行使された。


 念話の対象として、レインを思い浮かべる。


(……もしもし)


 すぐにレインと繋がった。


(……何かしゃべってみて?)


(レインさん、聞こえますか?)

(……うん、聞こえる。上手くいってよかった)

(はい。ありがとうございます。じゃあ、これで切りますね)

(……また、いつでも掛けてきていいから)


「……成功した」

「ありがとうございます。助かります。――ところで、念話って傍受とかは大丈夫なんですか?」


 念話を切り、三人にお礼を言う。セキュリティ面について、ふと気になったので聞いてみた。

 

「傍受するにも、相手に念を送らないといけないからね。送られた側は気づくよ」

「……傍受されたというのは聞いたことがない」

「なるほど。では安全そうですね」


 いい物を貰ってしまった。



――実は大きな借りを作ってしまってないか、不安になるが。


【翌日】

――宿屋外にて――



「じゃあな。入りたくなったら呼べよ?」

「……それ以外でも、何かあったら連絡して」

「私達も次の仕事を探しに行くとします。またお会いしましょう」


「はい、色々とありがとうございました」

「さよならでありんす」

 

 アレンと稲姫は三人の出立を見送った。いい出会いだった。



――「またあの人達と会えたらいいな」とアレン達も話し合い、リムタリスを目指して出立するのだった。



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