【第二部】第一章 首都リムタリスを目指して
――街道にて――
エリスとカールに見送られ、アレン達はエクスプローラー養成学校のある街――“ドクトリナ”を後にした。目指すは、今いるリムン国でエクスプローラー協会のある首都――“リムタリス”である。
「う~ん、久しぶりにドクトリナを出たなぁ」
伸びをしながらアレンは街道を北上する。
「にゃはは! ご主人がこんなところにいるなんて、思いもよらなかったにゃ」
アレンに応えるのは猫の妖獣、琥珀だ。
オレンジ色のボブカット髪をした少女であり、猫耳としっぽが生えている。着物の袖丈と裾を短く整えており、見た目すごく快活そうだ。
「わっちも主様の中で眠ってて、起きたら全然知らないところだったから驚いたでありんすよ」
そう応えるのは狐の妖獣、稲姫だ。
あどけない、凄く整った顔立ちをしている。髪は黄金色のキレイなセミロングで、こちらも狐耳としっぽが生えている。いつもは琥珀と同じく着物だが、今は外出用にこの前買った服を着ている。
琥珀と稲姫はアレンの昔からの仲間であり、訳あって稲姫はアレンの中で休眠状態に、琥珀は離れ離れになっていた。
しかし、稲姫の目覚めを経て、その気配を感じた琥珀も馳せ参じることができ、こうしてまた三人で行動することができている。
「俺も記憶を失ってたからな。――というか、まだ思い出せないことの方が多いけど。でも、二人のことはだんだんと思い出せてる。それだけでも嬉しいよ」
そう。アレンはとある時点以前の記憶が欠落している。なぜかは未だにわからない。
稲姫は何か事情を知っているようだが、辛い記憶だからか、あまりその話には触れたがらない。琥珀も同様だ。
エクスプローラー養成学校内では、稲姫を狙って仮面の襲撃者達が現れたり、その影響でアレンが学校を卒業させられたりとドタバタしたこともあり、過去の話の続きを聞きそびれてしまっている。
腰を落ち着けられるようになったらまた続きを聞きたいが、いつ再び襲われるかもわからないので、今は急ぎエクスプローラーになり、かつての同胞を探したり、さらに力をつけるために行動したい。
――そして、かつて自分を助けてくれたあの子を探したい。
◆
アレン達はその後も街道に沿ってひた歩く。
「そう言えば、どこに向かってるにゃ?」
「この先、北上したところにある国の首都――リムタリスだよ。そこにエクスプローラー協会があるから、まずは正式なエクスプローラーになるために試験を受けるんだ」
「エクスプローラーになると、何かいいことがあるんでありんすか?」
「一般人が立ち入りを禁止されている地域への出入りが許可されるからね。行動範囲が広がる。それに、協会の持つデータベースを閲覧できるようになるから、一般には公開されていない秘匿情報も閲覧できる様になるんだ。もちろん、閲覧したら秘匿義務は生じるけどね」
そう。まずは行動制限の解除と情報の取得が必要だ。これから何をするにしても、これらが有ると無いとでは、取れる選択肢の幅が違ってくる。
「人間の世界って面倒にゃ」
「この世界で人間の生息できる土地は限られてるからね。危険な地域に侵入して無駄に命を散らさない様、一般人を守る意味もあるんだよ」
稲姫や琥珀のように、人間と共存してくれる妖獣ばかりではない。むしろ、全体で考えればその方が珍しい。
東方の島国では、アレンの出自――“御使いの一族”が、積極的に縁を結んで来たので、妖獣との関係が良好に保たれていたのだ。だが、それも島国全体で見れば少数だ。
「人間の未到達地域は、“妖獣”や“モンスター”――そして、“神族”や“魔族”などもいると言われてる。一般人が軽はずみに侵入したら、まず無事では済まないからね」
「血の気が多いのもいるからにゃあ……」
琥珀も納得したようだ。
「――っと。この先に村があるな。もういい時間だし、今日はここで休んでいこう。すまないが、琥珀は獣化してくれないか?」
「どうしてにゃ?」
「その着物はこの地方では目立つんだよ。――悪い。街を出る前に琥珀に服を買っておくべきだった。首都についたら買いに行こう。悪いが、それまでは耐えてくれ」
「了解にゃ……」
琥珀はしぶしぶながらも猫化する。稲姫は、この前買った服を着てるので問題ない。狐耳としっぽも隠してもらった。
――そうして、アレン達は街道沿いの村へと立ち入った。




