【第一部】第四十四章 別れ、そして旅立ち
――闘技場――
「しょ、勝者! アレン!!」
審判がアレンの勝利をアナウンスし、場内が大歓声で埋まる。
「アレン! やったぁ!!」
「よっしゃあ!!」
エリスやカールが快哉を叫ぶ。稲姫や琥珀、クレアも観客席で大喜びだ。アレンは場内の観客席に手を振り声援に応える。
「参ったよ。一体、君は何者なんだい?」
そう言いながら対戦者のエーリッヒが手を差し出してきた。
「ちょっと訳ありな、元学生ですよ」
ぼかしながらアレンも握手に応じた。
「それではこれにてアレンさんの卒業試験、現役エクスプローラーとの実戦は終了となります。エーリッヒさん、ありがとうございました! みなさんも拍手でお送りください!」
退場するエーリッヒを場内の観客が拍手で送る。間もなくして、ナタリアがアレンに近づいてきた。
「アレン君! 凄いじゃない! こんな凄いだなんて思わなかったわ!」
興奮したナタリアがアレンの手を握り上下にブンブン振る。
「いやぁ、何とかなってよかったです。――これで卒業試験も終了ですよね」
場内の観客席の一角からプレッシャーを感じ、急ぎ要件をすませることにする。
「そ、そうですね。今日はお疲れさまでした。結果は明日、理事長室で伝えますので、明朝職員室に来てください」
こほんと咳払いし、ナタリアさんは試験の終了を告げる。
――なんとか無事終わったなぁ、とアレンは安堵するのだった。
◆
「とんでもない奴だったな」
退場したエーリッヒを迎え、同じギルド――“青ノ翼”のラルフが声をかける。
「いやぁ、惨敗だよ。面目ない」
「……アレは仕方ない。彼の力、何かわかった?」
同じく“青ノ翼”のレインがエーリッヒに問う。エーリッヒはアゴに手を当て、
「それがさっぱりなんだ。少なくとも僕は知らない。たぶん、デバイスにも登録されてないんじゃないかな?」
「……そう」
「理事長から学生の相手をしろと言われた時は気が進まなかったが、来たかいがあったな」
レインが残念そうに、ラルフが楽しそうに言う。
「ねぇ、相談があるんだけど」
――エーリッヒは、レインとラルフにある提案を持ち掛けるのだった。
◆
――寮内アレン自室――
「はぁ~っ……疲れた」
部屋に戻ると部屋着に着替え、アレンはベッドにダイブする。
「ご主人、お疲れ様にゃ」
人化した琥珀がアレンの背に乗り、マッサージしてくれる。
「あ、そこ、気持ちいい……」
グッ、グッと強めの指圧がとても気持ちいい。
「ずるいでありんす! わっちもわっちも!」
「ごふっ!」
人化した稲姫も乗っかってきた。勢いがよかったためアレンの肺から空気が漏れる。
「稲姫ちゃん、ご主人が辛そうにゃ」
「はーい!」
笑顔で背から降りて稲姫もマッサージをしてくれる。
「あ~……極楽……」
――コンコン ガチャッ
「アレン! お祝いにお菓子を作ってきたわよ!」
――現場をエリスに見られて修羅場になったのは言うまでもない……。
◆
――明朝、理事長室――
「文句なしの合格です。我が校始まって以来の最高成績ですよ」
理事長が柔らかな笑顔でアレンに合格を告げ、卒業証書を渡してくれた。
「略式でごめんなさいね」
「いえ、気にしてませんので」
申し訳無さそうな理事長や校長、教頭、ナタリアに見守られながら、略式に卒業式を済ませる。
「それと、ギルド“青ノ翼”からこれを預かってます」
理事長から封筒を手渡された。
「これは?」
「“推薦状”ですよ。これがあれば、試験期間外でも、エクスプローラー試験を特別枠で受けられます」
アレンは目を見開く。
「でも、どうして私にこれを……?」
「あなたのことが気に入ったからみたいですよ。彼らを呼んだ私が言うのもなんですが、まさか、勝つとは思いませんでしたよ」
そう言うと理事長はコロコロと楽しそうに笑う。アレンとしては気恥ずかしいが――
「ありがたく頂戴致します」
――期せずしてアレンは、エクスプローラー試験特別枠の“推薦状”を入手するのだった。
◆
――職員室の片隅――
「アレン君、これ、私の連絡先」
ナタリアから、連絡先の書かれた紙を渡された。
「え? でもどうして……」
「べ、別に変な意味は無いわよ? ……困った時は連絡を頂戴。できる限り力になるから」
ナタリアは赤い顔でそっぽを向いている。
「ありがとうございます。なるべくご迷惑をお掛けしない様にしますが、困った時は頼らせてもらいますね」
「困ってなくても連絡してきていいからね……その、別のことでも」
「え……?」
「な、何でも無いわ! じゃ、じゃあ、元気でね!」
ワタワタするナタリアに背を押され、職員室を後にした。
◆
――校舎入口――
「あ、アレン君!」
クレアに呼び止められた。
「あの時はごめんね。私、操られてたみたいで……」
「そうみたいだね。でも、悪いのは襲撃者達だし。……それに、俺達を襲うために君が利用されたのなら、謝らなきゃいけないのはむしろこっちだな。ごめん……」
アレンはクレアに頭を下げる。
あの後からクレアのことは注意深く観察していたが、特に怪しいところは無かった。おそらくは本当に操られていただけなのだろう。
「こ、これ、私の連絡先……」
クレアからも連絡先の書かれた紙をもらった。ナタリアの時と同じように感謝して受け取った。
◆
――寮内アレン自室――
その晩は、エリスとカールがお別れ会を開いてくれた。稲姫と琥珀の人化を外で見られたくないため、いつもの寮内アレン自室で食事会を開く。
奮発した食材で、エリスが腕によりをかけて料理をふるまってくれた。カールは贈り物として、有名な鍛冶師が打ったという双剣をくれた。
「ありがとう。でも高かっただろ」
「いいってことよ。まぁ、お前にはすぐに物足りなくなっちまうかもしれないけどな」
アレンは鞘から剣を抜き、その見事さに感嘆する。
「大事にするよ」
「みんな~、ご飯できたわよ~」
エリスの呼びかけに応じ、皆でワイワイと食事をとるのだった。
◆
――翌日、街の入口――
「じゃあ、行くよ」
早朝、俺と稲姫、琥珀は、エリスとカールに別れを告げる。
「すぐに卒業して追いつくからね」
「そうだぞ。次に会う時は驚かせてやるからな」
エリスとカールがそう言ってくれるが――
「危ない旅になるだろうからな。俺のことは気にせず、二人は自分のやりたいことをやってくれ」
「うん。だから追いかけるのよ」
「右に同じ」
ニシシという感じで笑う二人をまぶしく思い、アレンは最後に感謝を告げる。
「ありがとう。お前達に出会えてよかったよ」
「ありがとう!」
「ありがとうにゃ!」
「またね!」
「またな!」
そうしてアレン、稲姫、琥珀は街を後にした。まずは“エクスプローラー”になることを目指して。
――ここから、アレン達の旅が始まる……。
<第一部・完>




