【第一部】第四十二章 卒業試験 アレン対エーリッヒ①
――闘技場――
闘技場に入ると、観客席は人でごった返していた。ミハエル戦の時よりも多いな。最前列には、エリス、カールがおり、アレンに気づいたのか、手を振ってくる。
「頑張ってね~!」
「負けんなよ~!」
エリスの膝には狐化した稲姫が、隣に猫化した琥珀がおり、同じくこちらに声援を送ってるようだ。少し離れたところにはクレアもおり、こちらに手を振っている。
――この様子だと、この前の襲撃では本当に操られただけだったのかもな。
手を上げ声援に答えるアレンにナタリアが声をかける。
「アレン君。武器はあそこにあるから好きなのを選んでね」
ナタリアさんが指差す先には武器庫があった。剣、槍、盾など色々あるが、アレンはやはり使い慣れている双剣を選ぶ。
実剣だった。戦闘で脅威となるのは武器だけではない。魔法や武技もだ。今回の実戦が命のやり取りを目的としたものでないとは言っても、全力の力を発揮するには武器も実剣である必要があるのだ。
アレンは軽く双剣を素振りし、違和感の無いことを確かめると鞘に戻して腰に差した。
「では、行ってきます」
「頑張ってね」
ナタリアさんから送り出されてリング内に進む。リング内では既に対戦相手が待っていた。
「君がアレンかな? 理事長が言うには、ずいぶんと優秀だそうだね。楽しみだよ」
「よろしくお願いします」
現役のエクスプローラーだったか。やはり修羅場を潜ってきてるからだろう、油断ならない気配を感じるな。今も穏やかに応じてはいるが、隙は見当たらない。
「お二人とも準備ができたようですね。予定時刻になったことですし、始めましょうか」
審判の教官が腕時計を見ながら両者に告げた。
◆
「それではこれより! アレンさんの卒業最終試験として、現役エクスプローラーとの実戦を始めます! 対戦相手には、ギルド“青ノ翼”のエーリッヒさんにお越し頂いています!!」
審判が拡声器でそうアナウンスをすると、会場内にどよめきが起こる。
「嘘だろ? “青ノ翼”っていったら、ギルドの中でも上位、“プラチナ”じゃないか!」
「なんで、そんな大物が……」
アレンも聞いたことがある。エクスプローラーは無所属の個人で活動する者もいるが、ギルドに所属するのが一般的だと。
ギルドには“クラス”という等級区分があり、実力や実績により、ふさわしいものが協会から与えられる。クラスが高い程、協会から与えられる物資や資金の援助が多くなり、皆が目指すことになる。
――クラスは上から順に、
“パープル”
“ブラック”
“プラチナ”
“ゴールド”
“シルバー”
“ブロンズ”
の六つがある。しかし、“パープル”は過去現在問わず、極わずかの例外的存在であり、現実的なトップは“ブラック”となる。
――確か、身分証として、クラスと同色のエンブレムプレートを吊り下げたペンダントを身に付けているはずだが……。
アレンが気になり、エーリッヒの首元を見ると――
「これかい? 僕らはプラチナだよ」
エーリッヒはペンダントを手で持ち、アレンに見えるように胸元から取り出して見せる。翼を象ったプラチナのエンブレムプレートが輝きを放つ。見事な造りだ。
しかし、今はそれよりも――
――僕ら?
アレンが気になり周囲を探ると――いた。エリス達から少し離れた観客席に、周りと明らかに異なる気配を放つものが数人。
「君は勘がいいんだね。――さて、自己紹介も済んだし、そろそろどうかな」
エーリッヒが審判に開始を促す。
「そ、そうですね。それではルールを説明致します!」
審判が述べるルールはこうだ。
1.実剣、魔法、武技すべて使用可
2.審判がどちらかの戦闘不能を確認、もしくは、どちらかの降参をもって勝敗を決する
実にシンプルだ。ミハエルとの決闘時にあった保険がない。卒業試験としての戦闘だが、命の保証は無い程の真剣勝負ということなのだろう。
「それではこれより! アレンさんとエーリッヒさんの実戦を開始します!!」
――審判が高らかに宣言し、ついにアレンとエーリッヒの戦闘が開始された。




