【第七部】第十三章 人質救出(屋敷)
――三の丸・屋敷――
神楽達の牧場への突入と時を同じくして、八咫は母達が捕らえられている屋敷に踏み込む。
断定の根拠は明白。あの時、神楽にその映像を見せられていたからだ。黒夜のみ幼さを気遣われ見ていないが、他の烏天狗は全員見ている。
「八咫。一直線に行くぞ」
「端からそのつもりだ」
黒磨が言うまでもなく、八咫は急ぎ文字通り通路を飛んでいく。黒夜は必死に八咫にしがみついていた。
百合と牙楽から使わされた忍、それぞれ二名は追随できないスピードだ。黒磨のみがなんとか食らいついている。忍達は追随をあきらめて、八咫達に害が及びにくいよう、屋敷内に散らばり敵の掃討に当たった。
八咫と黒磨、黒夜は飛ぶ勢いで目的地の部屋の前に至る。道中に会った警らの妖獣は、八咫が問答無用で即殺した。
神楽から送られた映像通りの光景だった。迷う余地など皆無。八咫は勢いよく扉を開けた。
「黒羽っ!!」
「――――黒磨!?」
自らの想い人を見つけた黒磨が文字通り飛んでいく。その想い人――黒羽は信じられないというように、だがしっかりと黒磨を受け止めた。
それを視界におさめつつ、八咫はようやく――やっとのことで母の元に至る。跪き、わびた。
「母上。助けに参るのが遅くなり申し訳ございませんでした」
だが、母――黒雨の表情は、嬉しそうな、そして悲しそうな表現の難しい泣き笑いだった。
「黒斗……ありがとう。ほんとうにありがとう。――黒夜もね」
「お母さん!!」
八咫の名を冠する前の名――自らと夫が授けた名で呼ぶ母の黒雨。そして、黒夜は八咫から離れ、黒雨に飛び付いた。
「よかった、無事で」
八咫が感極まりそう言うと、場が静まりかえった。
その静寂に嫌な予感を覚える八咫と黒磨。この場に囚われていた女性は八咫の母黒雨と黒磨の恋人黒羽ともう一人――黒曜しかいない。
黒雨は少し辛そうに笑い――代わりにと言うべきか、黒雨と黒曜が泣き出した。
「黒雨様は、私達の身代わりに……」
「お守りできず、申し訳ございません! わ、私が身代わりになれば――!」
「お止めなさい! ――私が、そうすると申し出たのです、二人に罪は一切ありません」
泣きながら事の次第を語ろうとする黒羽と黒曜。そして、泣きそうになりながらも毅然とした態度を取り繕うとする自らの母、黒雨。その三者の態度を見て、勘の良い――良すぎる八咫は察してしまった。
「そうか……遅かったか……済まない……済まない……っ!!」
うつむいた八咫が目を見開き涙を流しながら懺悔する。意味がわからず兄を見つめる黒夜。状況を察し、八咫に寄り添い震える肩に手を置く黒磨。
――八咫の身体を、抑えきれぬ程膨張した殺意が黒いオーラとなって包み込んだ。




