【第七部】第九章 後城の四鬼
――後城・本丸――
後城本丸には四鬼が住まっていた。水鬼、金鬼、風鬼、隠形鬼の四体だ。それぞれがおよそ二百の部下を擁している。
寡兵とは言えその力は強大。馬頭が三の丸に追いやられたように、兵の一体一体の戦闘力は高く、並の妖獣を軽く上回っていた。
部下のほとんどは二の丸に住まわせ、水鬼達四鬼はわずかの下僕を伴い本丸に住んでいた。
もうすっかり夜だ。だが、本丸の一室では明かりが灯っており中から楽しげな笑い声がもれ聞こえてくる。
◆
「はい、私の勝ちですね」
「あ~! また負けたぁ!!」
勝敗が決まり、水鬼が花札を勢いよくぶちまける。勝ったのは風鬼だ。
花札の遊び方は以前、捕らえた人間の女から聞き出した。用済みとなった女は適当に解放した。特に理由は無い。どうなるか興味があっただけだ。人間達の軍は東に逃げ落ちている。今さらどうこうできるはずもない。
後から聞いた話では、女であったため馬頭に捕らえられたそうだが、さして面白くもなく四鬼達の記憶から消え失せていた。
一体、身体を横にしながら酒ビンをあおる鬼がいる。金鬼だ。四鬼の中で一番の怪力を誇る金鬼は、その逞しい金色の身体をボリボリとかく。
「お前ら、人間の遊びなんて何がおもしれぇんだ?」
「酒をのんでばっかよりは面白いよ? たぶん」
「ばっか、水。おめぇは何もわかってねぇ。酒は気持ちいいんだよ」
「どちらの意見も否定はしませんが、そうですね……中々奥深い遊びに思いますよ? 脆弱な人間でも知恵は回る。いやはや、カスの様な存在でも何らかの取り柄はあるものですね」
風鬼の毒舌に水鬼と金鬼が笑い声を上げる。いつものことだった。だが、今夜においてはいつものこと以外のことも起こる。
部屋の床の一部に不自然に影が発生し、そこから影同様黒ずくめの鬼が現れた。
――その鬼こそが、四鬼最後の一体である隠形鬼だった。
「なんだ、隠。ここに来るなんて珍しいじゃねぇか?」
「何? 花札やる?」
「私も少々疲れました。交代しましょうか」
そんないつも通りの和やかなやり取りの中、隠形鬼のかたい声が場に水をうつ。
「二の丸の輪状水路に突如黒い龍が現れた。奇襲による混乱はおさまりつつあるが、迎撃に当たっている各部隊の被害が大きい。お前達も出撃してくれ」




