【第七部】第八章 作戦
――羊富山の麓――
「神楽殿と烏天狗の方々とお見受けする。相違ないか?」
口元を布で覆い隠し少し長めのポニーテールをしたくノ一がそう声をかけてきた。少しつり目気味、凛とした佇まいが印象的だ。
「そうだ。そちらは、朝霜組の――」
「朝霜組、後城監視部隊を預かっている隊長の百合だ、よろしく」
「落陽組、牙楽」
くノ一百合に対し、男の忍――牙楽の口数は少ない。背が高く、筋骨隆々。百合と一緒に現れたということは牙楽も諜報部隊なのだろうが、見た目の上では忍びにくそうではある。腰に巻き付けた分銅鎖が妙な威圧感を放っている。敵に投げつけるのだろうか。
「早速だが、作戦について話したい。構わないか?」
「こちらも望むところ。もう辺りも暗い。さっさと済ませて後城に向かおう」
「右に同じ」
「了解。その作戦だが――」
神楽が人質の救出作戦について一通りを語る。ここに来る途中に<護符通信>で説明してもよかったのだが、万一の盗聴――できるかわからないが、念のため――を危惧して口頭で伝えることにしていた。
神楽の説明を聞いた百合がどこか疑い深げな視線を送ってくる。
「まぁ俺の力は実際に見ないとわからないだろうからな」
神楽はそう言うと、右手の手のひらを目の前の地面に向けた。
「複製、琥珀シャドー」
神楽の手のひらの先に、闇より濃い漆黒が集まり形づくっていく。それはやがて、琥珀の姿となった。
百合が驚きに目を見開く。<複製>は初めて見る烏天狗達も同様だ。
「これは……妖術の類いか?」
「ん~……まぁ、同じようなものなのかな? とにかく、俺はこんな感じで複製体を作り出し操ることができる。本番では蛟――水龍を突っ込ませるから、敵の注意は引けるはずだ」
「龍すら作り出せるとは、恐るべし」
牙楽も興味を持ったようで、近寄り琥珀シャドーをマジマジと見回していた。
「後は作戦通りに。準備がよければ、直ぐにでも出たいが」
「相分かった。――お前達!」
「「「はっ!!」」」
百合が声を張り上げると、忍が一斉に現れた。朝霜組だけでなく落陽組も。朝霜組が九名、落陽組が八名いた。<護符通信>で事前に聞いていた通りの人数だ。
忍達が周囲に隠れていた気配を全く感じ取れなかったのだろう。黒磨と黒悠が青い顔をしている。「これだから人間は……」「こえぇよ……」黒夜は八咫に抱きついていた。やはり怖かったのだろう。
神楽は皆を見回して出撃の音頭を取った。
「じゃあ向かおう! あくまで人質の救助を最優先に! 人間だけじゃない、烏天狗達もだ! 余裕があれば他の種族も! こんな非道、決して許しちゃいけない!!」




