【第七部】第六章 後城に向け
――空香溪谷上空――
翌朝、神楽は烏天狗達と共に再び西の後城へ向け上空を飛んでいた。
烏天狗達は皆、予定よりも数刻程早く起床した。やはり、人質のことが気にかかり深くは寝付けなかったようだ。
だが、その顔色は昨夜に比べだいぶよくなっている。皆で朝食を済まし用意を整えると、直ぐ様上空へと飛翔した。
『お前は寝たんかよ? 顔色は悪くねぇようだが』
『俺はいいんだよ、訳あって体力には自信がある』
『おま――、いや、どうツッコんでいいのかわかんねぇわ……。無茶はすんじゃねぇぞ?』
『まさかお前に言われるとはな……』
『あぁ!?』
『落ち着け黒磨。――だが、神楽。黒磨の言う通りだ。俺達を休ませようとしてくれたこと、見張りをしてくれていたことには感謝するが、お前がへばってしまったら元も子もない』
『今の俺はほんとに1日くらいなんともないんだが……わかったよ、わかった。適度に休みつつ飛ぶよ』
『休みながら飛ぶってのも意味わかんねぇけどな……』
そんなやり取りの後、神楽は自己申告通り休みながら飛んでいた。一時的にだが<千里眼>の使用は控え、いざという時のために最近では常用し続けている<肉体活性>も解除していた。
見た目にはわからないので八咫や黒磨達にはわからないが、確かに神楽は休みを取っているのだ。
そして、空香溪谷を抜け、札帳平原にさしかかった。
◆
――札帳平原――
「見渡す限り平野だな」
「お前はセンリガンとやらで見ていただろう?」
「それはそうだが、昨夜は暗かったからな。晴れてる今に見ると緑の絨毯って感じで綺麗だな、と」
「そいや、お前はどこから来たんだっけか?」
「この北州の北の方からだよ。だから、こっちに来るのは初めてなんだ」
本当ならもっと穏やかな状況で訪れたくはあったが、烏天狗達の方が辛いのだ。余計なことは言わないでおく。
「しかし、上空とはいえ、俺達がまとまって飛ぶと地上から見つかりそうだよな……」
「今さらだな。今のところ敵の気配は無いが、見つかってもおかしくはない」
「なら別れて飛ぶか?」
「それも手ではあるが……」
「<千里眼>でなるべく注意しておくよ。バラけてても距離がそれ程離れてなきゃ意味ないし。こればかりは運だな」
結局、なるべく見つからないように高度を取るだけにした。神楽は<千里眼>で地上を手当たり次第に監視するが、モンスターらしきものがチラホラ見つかるだけで、馬頭の群れにいた小鬼や妖獣の姿は見つからなかった。
神楽達は特に妨害も受けず上空を通過していく。
そして、夕陽が沈み始めた頃、ようやく後城が米粒程度に見える距離までたどり着いた。




