【第六部】第百十二章 協力
――森――
「ま、待て……」
八咫が珍しく動揺を見せる。他の烏天狗達も訳が分からないといった顔を神楽に向けていた。
「ん?」
「お前は関係ないだろう? 何が狙いだ……?」
「え? いや、別に何も……?」
「この情報を教えてもらったことには感謝している。事が済んだら出来る限りの礼を尽くすつもりだ。――だが、なぜ俺達に協力してくれるんだ?」
「いや、大変な状況だから手助け出来たらと思っただけだが……」
神楽が戸惑ったようにそう言うと、烏天狗達は皆キョトンとする。だが、すぐに気を取り直して反論してきた。
「俺達を田舎者だと思ってバカにしてるのか!? 流石にそんな都合のいい話が無いことくらいわかるにきまってるじゃねぇか!!」
「俺達妖獣を同士討ちさせるため、では? 後城の馬頭残党を俺達に駆逐させるためか?」
「なるほど……。そんな考えもあったか。じゃあ、それでいいよ。俺達人間にも得だから協力する。それならお前達も受け入れやすいだろ?」
神楽としてはさしたる問題とは感じておらずなぜそこまで気にするのかが理解できない。だからさっさと済まそうとしているのだが、やはり烏天狗達の顔は納得には程遠かった。
神楽は少しじれったくなった。
「今も苦しめられてる仲間がいるだろ? 助けに行くのに人手は多い方がいいだろうが」
「……わかった。力を貸してくれ」
「八咫!?」
「わかってる。納得出来た訳じゃない。理解不能だ。――だが、悪意は感じないし、俺達だけで複数の拠点を同時に襲撃するにはやはり戦力が足りない」
「だからって……」
「俺達だけで助けに行くのも分が悪い以上、俺はこの人間――神楽を信じたい」
八咫の考えに完璧に納得は出来ないまでも、烏天狗達から反論は出ない。それを見届けて八咫が神楽に向き直った。
「神楽。疑って悪かった。――いや、まだ疑ってはいるが、俺達に協力して欲しい」
「おぅ。って言っても、手を貸せるのは俺くらいだけどな。皆、富央城に戻るだろうし――お前達の前で言うことではないが、仲間にあの光景は見せたくない」
「構わない。心より感謝する。この礼はいずれ必ず――」
「いいって。今は人質を助けることに集中しよう」
神楽の態度に毒気を抜かれたのだろう。烏天狗達が少し困ったように笑った。
「――ったく。こりゃ、本物かもな!!」
「どういう意味だ?」
「いや、なんでもねぇよ! 神楽!!」
黒磨が楽しそうに神楽の肩を組む。
話はまとまった。
だが、「今すぐ向かおう」と八咫が口にした瞬間――
神楽が叫んだ。
「誰だ!?」
神楽は蒼炎の壁を見つめている。八咫達も注目したが、そこには誰も見当たらない。神楽の大声に異常事態の発生を察した青姫と稲姫、黒夜がこちらに走りよってくる。
神楽の誰何に蒼炎の向こうから返事がきた。
「あら、勘のいい坊やだこと。気配は消していたつもりだけれど?」
蒼炎の壁の一部に穴があくと、そこから間もなくして、艶やかな着物に身を包んだ女、そして狸と思われる神獣が姿を現した。




