【第六部】第百十章 不信
――森――
神楽は姿勢を正し八咫達の方に向き直る。口を開きかけたが、稲姫や青姫、そして八咫に不安そうにしがみついている黒夜が目に入りこのまま話すのはマズいと思い直す。
「…………」
「おい! 話すって言っただろうが!? なんなんださっきから!!」
「黒磨、落ち着け。――女子供には聞かせられない話か?」
流石と言うべきか、八咫の察しはよい。神楽はうなずく。
「――わらわ達は離れておるかのぅ。ほれ、稲姫。其方もじゃ」
「わかったでありんす……」
「お兄ちゃん……」
「黒夜、大丈夫だ。すぐ終わる。大人しくお姉さん達と一緒にいるんだぞ?」
「うん……」
青姫は稲姫、黒夜を連れて距離を取った。地獄耳でもない限り話は聞こえないだろう。それを見届けた神楽は改めて口を開く。
「じゃあ、話すぞ? ――これは、一切嘘偽りの無い話だ」
そうして、神楽は<千里眼>で見たことを語りだした。
◆
「嘘つけ!! そんなことがあってたまるか!!!?」
黒磨の怒号が響き渡る。神楽に詰め寄ろうとするのを八咫達が羽交い締めにして止める。
「落ち着け!」
「これが落ち着いていられるか!! こいつは里の女達が慰み者になってるって言ってんだぞ!?」
この声量では青姫達にも聞こえてしまっただろう。神楽が気になり視線を送るとやはりと言うべきか、三人が不安そうにこちらを見ていた。
「だが、黒磨の言うことももっともだ。軽々しく信じていい話じゃない」
黒磨よりは冷静な黒悠でも声が震えている。だが、神楽はありのままを伝えるしかない。
「事実だ。信じられないなら俺はそれでも構わない」
神楽の突き放したような態度に烏天狗達もマズいと思ったのだろう。顔を見合わせ、やがて八咫が聞いてきた。
「黒悠の言うことも一理ある。信じたくても、いきなりは難しい。それだけ重大な内容だ。――何か、見た目の特徴などを教えてくれないか?」
「そうだな……。俺の視てるものをお前達と共有できたら話が早いんだが……。――ん? 脳内イメージの共有か……。なら、これが使えるか?」
神楽は、<幻惑魔法>を使い、自分が<千里眼>で視ている映像を八咫達にも見せられないか考えた。
そして、八咫達に説明し同意を得、皆に<千里眼>で自身が視ている映像を送った。




