【第六部】第百九章 覚悟
――森――
「………………」
「どうした? 見つかったか?」
眉根を寄せて黙り込む神楽に八咫が声をかける。それでも神楽は口を開けない。
皆がいぶかしみ神楽を見つめる。やがて、焦れたのだろう、黒磨が神楽に詰め寄ってきた。
「おい! 何を見た!? ほんとにお前は遠くが視えんのか!? 俺達をからかってんならただじゃおかねぇぞ!?」
「やめぃ! 我が君に触れるでない!!」
神楽の肩に手を置こうとする黒磨を青姫が睨み付け大喝する。黒磨もマズいと思ったのだろう。手をかけるのを諦め後ろに下がるとドカリと地に腰をおろした。
神楽から説明があるまで一歩も動かないという強い意思を感じさせる程神楽をジッと睨み付けている。
黒悠達も心配になったのだろう。近寄ってきて黒磨の近くに腰をおろした。八咫も黒夜を連れて移動してきた。
皆が見つめるも神楽はいまだ口を開けない。
(どう説明しろってんだよ……こんなの)
神楽は途方に感じるもこのままではいけないと頭を巡らせる。
――だが、素直に伝える以外の答えが見つからない。
「主様……」
「我が君。黙っておってはわからぬ。この者達も困っておるぞえ?」
「…………」
稲姫と青姫が心配に見つめてくるも神楽は目を合わせられない。言葉も発せられない。
やがて、八咫が神楽に語りかける。
「お前が何を見たのかはわからないが、俺達への気遣いは不要だ。俺達は人質を助け出さなければならない。――正確な情報がいる。教えてくれ」
そして八咫が神楽に頭を下げる。他の烏天狗達も八咫にならい頭を下げてきた。
それでも神楽は口を開けない。残酷な事実をそのまま伝えることが本当に正しいのか、確証が持てずにいる。
だが、一向に頭をあげない烏天狗達を見て、頑として譲ろうとしないのを理解し、神楽は上手く動いてくれない口を不器用に動かし震え声で八咫達に語りかけた。
「降参だ……。だが、これはお前達を、どうしようもない程、傷付けるだろう。――本当に、知る覚悟は、あるか?」
「もったいぶらずに早く教えやがれ!!」
「黒磨!! ――すまない、うちの者が。教えてくれ。それがどのようなことだろうと決してお前を恨みはしない」
八咫達の決意を受け取り、神楽も意を決した。




