【第六部】第百五章 烏天狗達②
――森――
「八咫……いいのか?」
「いいも何も、元より、囲まれた時点で俺達に選択肢はない。こいつらは――こいつは、危険すぎる」
八咫が神楽を見る。
稲姫と青姫に抱きつかれ情けない声を上げてはいるが、こちらへの注意は一瞬たりともそらしてはいない。目はこちらを向いていないのに見られている気がする。八咫は自分の直感から、神楽を危険人物と認識していた。
「それに、約束は守っている。今、近くに監視の目は無い。遠巻きに見られているだけだ」
蒼炎の壁が邪魔だが、八咫の鋭敏な感覚がそれをつかんでいる。
「信用――までは難しいが、今俺達は圧倒的に不利な状況にいる。逆らわずに話すべきだ。だが、俺達の計画の邪魔は――」
「するつもりもないよ。馬頭を殺した先の計画? ――もしかして、人質でも取られてるのか? その解放?」
「……こう見えて頭も回るようだ。ただの色好きと見て侮ると、痛い目を見るのはこっちだぞ?」
「いや、訂正させて欲しいが!? 色好きって、俺は童貞だぞ!?」
思わずそんなことを口走ってしまう。烏天狗達から、思わずと言ったように笑いがもれた。
「わらわが我が君の初めてをもらうのじゃ!!」
「そうはさせないでありんす! わっちと琥珀ちゃんが予約済みでありんすよ!!」
色んな意味で誤解があるが、今はスルーだ。神楽は本題に入る。
「いいから、まず! お前達の目的を教えて!? そこに倒れてるのは馬頭で間違いない!? お前らの人質はどこにいるの!? 後城!?」
神楽の叫びが響き渡った。




