【第六部】第百一章 空香溪谷の戦い⑤
――崖上――
大勝に賑わう中、法明からの指示が飛ぶ。
「逃げた馬頭はまだ遠くに行っていないはずだ!! 捜索部隊を向かわせろ!! 暗部は馬頭を発見次第、直ぐ様報告!! しかけるのは捜索部隊がたどり着いてからだ!!」
取り逃がした馬頭をこの溪谷で討ち取るにこしたことはない。強引に突破され逃げられてしまったが、馬頭の群れの大部分は既に討ち取った。油断せず確実に追い込めば馬頭も必ず討ち取れるはずだ。
だが、懸念要素もある。法明は神楽に<護符通信>をつないだ。
◆
(お前の言う通り烏天狗達には手を出さずにおいたが、馬頭と合流したらやっかいになるぞ? それをわからぬお前でもあるまい?)
(あいつらは積極的に馬頭に味方しないよ。もう確信してる。だけど、馬頭に見つかって無理矢理言うことを聞かされるかもしれないから、先に馬頭を見つける必要がある。俺と稲姫も<千里眼>を使いながら追ってる。――あ、見つけた)
神楽は見つけた馬頭の居場所を法明に伝える。どうやら、一番近くにいる人界軍は神楽達のようだ。
(俺達は直ぐ様向かう。馬頭を見つけたらそっちの到着は待たずに――)
(わかっている。お前達ならどうとでもなるだろう。好きに仕掛けろ。だが、油断はするな)
(わかってる)
時間が惜しい。法明との通信を切ると、直ぐ様神楽は飛び立った。稲姫を抱き抱えた青姫とレインが追随する。蛟は滝壺で軍と共に後始末――死体の始末――に当たっている。
「ほんに便利じゃのう、<千里眼>とやらは」
「……私も欲しい」
「稲姫様々だ」
「えへへ……」
はにかむ稲姫の頭を神楽は優しくなでる。
「よし! 最後まで気を抜かずに行くぞ!!」
「当然じゃ!!」
「……逃がさない」
「やっと終わるでありんすね」
神楽達は急ぎ馬頭の元に向かった。




