【第六部】第九十九章 空香溪谷の戦い③
――滝壺――
「<水刃>――って、なんで子供を抱き抱えてんだよ!?」
「<風壁>」
神楽が水の刃を自分の周囲に作り八咫に飛ばす間際、八咫が抱き抱える子供――黒夜の存在に気付く。八咫が自分の周囲に球状の風壁をはるが、水の刃は神楽の意思のもと、風壁に接触する前に方向転換する。
(戦いづらいわ!?)
ねねと同い年くらいだろうか。<千里眼>で小さな烏天狗がいることは知っていたが、まさかこんな形で相対するとは思わなかった。
(俺相手に連れてくるか普通!? 仲間に預けてくるだろ、せめて!!)
客観的に見て、敵からしたら自分はかなり不気味な存在である自負のある神楽としては、八咫の行動が信じられない。八咫からしたら、自分の周りこそが一番安全だと言い切る――黒夜を守りきる――自信と決意の現れではあるのだが。
「お兄ちゃん……」
「しっかりつかまってろよ?」
「うん、頑張って」
「わかってる。――<烈風>」
風壁をとき、直後、錫杖を神楽に向ける八咫。錫杖の先から凄まじい規模の烈風が神楽に襲いかかる。
だが――
「――――な!?」
烈風が神楽に到達することはなかった。緑色に輝く濃密な風属性の魔素が辺りを彩る。
――<魔素分解領域・風>
神楽だって馬鹿ではない。烏天狗が風を得意と知っている以上、対策はする。神楽の周囲に展開された分解領域が術を魔素レベルにまで分解する。
「八咫!! 加勢するぜ!!」
「一人で無茶するな!!」
「お前達!! こいつは危険だ!!」
黒磨や黒悠達も飛んできて加勢する。神楽を包囲し風の術による集中砲火が浴びせられる。
だが、そのことごとくがやはり神楽に到達する前に霧散する。それも、先程よりもかなり手前で。
辺りがさらに緑色の粒子に彩られた。
「我が君~~~!!」
「ぬ、主様に手出しはさせないでありんす!!」
「……倒す」
青姫が稲姫を抱き抱えて飛んでくる。稲姫は両手を神楽の方に向けていた。神楽のまわりに<魔素分解領域>を展開し領域をさらに強固にしているのだ。レインは今や慣れた<飛行>で青姫に追随してくる。
「妖狐!? おいおい、なんだ、聞いてねぇぞ!?」
「八咫!?」
稲姫を見た黒磨と黒悠から焦った声が飛ぶ。八咫としても動揺している。だが、そんな場合ではない。
「仕方無い。乱戦を利用して上手く上に逃げるしかない。自分達の身を守ることを優先しろ」
お互いに仲間を加えての乱戦が始まった。




