【第六部】第九十五章 一方、崖上では
――崖上――
一方その頃、崖上では法明達が布陣を整え迎撃準備を進めていた。
「陰陽師は式神を直前まで温存させろ。個人差はあるが、使用の制限時間があるからな。開戦の合図と同時に召喚を許可する。使用する式神は各々得意なもので構わんが、なるべく遠距離攻撃や支援の得意なものを選ぶようにしろ。地上近接特化の式神は今回、活かしにくいだろうからな」
法明が伝令を通じ陰陽師部隊に指示を出す。続けて侍部隊だ。
「侍は陰陽師の護衛だ。崖上とは言え、警戒は怠るな。敵の中には飛べる者もいるし、作戦が露見していないとも限らん。敵が現れても慌てず状況を報告させろ」
皆に指示が行き渡る。だが、奇襲のため森に潜んでおり声は上がらない。あくまで指示は<護符通信>を通じてだ。
「法明様。神楽様の方も問題なく準備が整ったようです」
「よし。馬頭軍はあとどのくらいかかる?」
「暗部の報告では後半刻程とのことです。依然、不自然な動き無し」
「そうか。順調だな。だが警戒は絶やさせるな」
「はっ!」
上手く行き過ぎている気はするが、現状取り得る警戒は全て取っている。神楽からも、<千里眼>での監視でも特に異常は見受けられない旨、報告を受けている。
後は予定通り、馬頭軍の到来を待つだけだ。
皆が固唾をのんでその時を待つ。
(不安要素はやはり、烏天狗達だな。敵側唯一の飛行戦力であり、その力も突出している。これをいかに抑えるかだ。――私が出ることも考えなくてはな)
法明は大将としての指揮もとる必要があり、直接戦闘はなるべく避けたいところ。こんな時、軍師の不足が嘆かれる。
今までの戦で優秀な者達を幾人も失ってきた。今もめぼしいものをはべらせ後進の育成を怠っているわけではないが、このような大規模な戦を任せられる程育ってはいない。強いて言うなら衛はその域に達しているが。
(衛が優秀過ぎたのだな。だが、衛には城を守ってもらわねばならん。人材の育成も急務だな……)
忙しさでもれそうになるため息をなんとか心中に押し留め前を向く。
(後は、神楽と蛟殿次第だな……。実力を疑う訳ではないが、十分に知っている訳でもない。天候すら操るという龍の力、見せてもらおうか)




