【第六部】第九十三章 八咫達の作戦
――馬頭軍最前列――
「お兄ちゃん、お帰りなさい!」
「ただいま、黒夜」
「どうだった?」
「特に異常は無かった」
八咫は皆の元に戻ると、抱きついてきた黒夜の頭をなでながら皆にそう報告する。そして進軍を再開する。歩きながら黒悠と黒磨が八咫の隣に並んだ。
(それで、あやしい場所はあったのか?)
(この先、まだ距離はだいぶあるが、大きな滝がある。道も広く、周囲には崖もある。奇襲にはうってつけに思えた)
(滝か……。だが、人間共だって戦いにくそうじゃねぇか?)
(崖上から一方的にしかける線もある)
(なるほど……。俺達は飛べるから応戦できるが、他の奴らは一方的にやられるだろうな)
皆、滝付近で戦闘したらどうなるかを思い浮かべているのだろう。黒夜が不安そうに話に入ってきた。
(お兄ちゃん……。戦い、怖い……)
(安心しろ。黒夜は兄ちゃんが守ってやる)
(って言ってもよ? 黒夜を抱き抱えながら戦うわけにもいくめえ?)
(? そのつもりだが?)
(お前……。いや、お前なら本当になんとかしそうだ)
八咫と黒夜以外があきれたような顔をする。
(真面目に戦えって怒鳴られるぞ?)
(乱戦になればこっちを気にする余裕も無いだろ。後は、上手く被弾したふりをして逃げるだけだが、崖上に敵が詰めてたら降りる場所次第で袋叩きにあうな)
(飛んでたら集中砲火にあうだろうしな……)
(やだ……)
(俺が見極める。合図したら、皆、俺の方に来てくれ)
(行き当たりばったりじゃねぇか……)
(仕方無いだろ。ある程度の危険は覚悟が必要だ。危険だからこそ、馬頭達を騙せるんだ)
(まぁ、そうだな……)
(安全を確保したら、後は成り行きを見守る。とにかく、死んだら元も子もない。決して無理はするな)
(いや、無理を求めといて言うなよ……)
(こればかりは、黒磨に同意するわ)
皆が苦笑いしているが、その顔は明るい。やっと訪れた、馬頭の束縛を断てる好機がきたのだ。嬉しくないわけがなかった。
(じゃ、後は予定通り進軍だ)
そうして、八咫達烏天狗を先頭に馬頭軍は滝壺に向け西から進軍していった。




