【第六部】第九十二章 感謝
――川辺――
「あいつ、ずいぶん中途半端な場所で引き返したな。――いや、やたら滝を注視してた。もしかして……」
八咫の動向は<千里眼>で神楽には筒抜けだ。途中で引き返してくれて安堵してはいるが、妙な引っ掛かりも覚える。
「どうしたの?」
「いや、偵察に向かってきてた烏天狗、引き返したんだよ」
「よかったじゃない」
修や咲をはじめ皆安堵の顔を浮かべるが、やはり落ち着かない。
「法明に伝えよう」
神楽は修と共に、法明に<護符通信>をつなぎ、今千里眼で見たことを説明した。
◆
(なるほど……。それで、お前はこの作戦が敵に露見している可能性を危惧しているのだな?)
(その通りだ)
(直感は大事だが、根拠に欠けるな。進軍路で一番目だつのがあの滝であることから警戒されるのはあるだろうが、崖上や滝裏にまで警戒が及ぶかはわからん。今は<千里眼>と暗部での監視を絶やさずにおくしかないだろう)
(わかった)
法明の言うことももっともだと神楽はうなずく。稲姫にはずっと馬頭本軍を<千里眼>で見てもらっている。おかしな動きは今のところ無いようだ。
(予定通り滝壺へと向かう。――修、問題は無いか?)
(特に異常はありません、法明様)
(ならばいい。何か異変に気付いたら今回のようにすぐ連絡してくれ、二人とも)
法明はそれだけ言い残し通信を切る。他の者達からの報告も法明に来ているはずだ。忙しいのだろう。
神楽と修が<護符通信>を終えたとわかると、皆が集まってきた。
「法明様はなんて言ってました?」
「このまま続行。異常があればすぐに報告するようにって」
咲の問いに修が答える。皆、気になっていたのだろう。
「稲姫。向こうにあやしい動きがあればすぐ言ってくれ。奇襲するつもりが逆に奇襲されるのが一番ヤバいからな。俺も、この烏天狗が戻ったら一緒に見る」
「わかったでありんす」
稲姫と協力して監視を強めれば磐石だろう。
「後どのくらいかのう?」
「数刻のうちにはつくと思うよ」
「滝壺につく前にわたし達は崖上に上がらないとだから、一緒にいられるのも後少しね」
修や咲をはじめ、だいぶ隊員達と打ち解けたようだ。少しでも分かり合える機会がもててよかったと神楽は改めて二人に感謝する。
「二人とも、ありがとな」
「気にしないでよ。仲悪いまんまじゃやりにくいしさ」
「どういたしまして」
気のいい二人でよかったと神楽は心から思う。死なせたくないな。みんなそうだが。
「じゃあ、後少し、油断せずに行こうか」
修の先導に皆でうなずく。滝壺に向け、進軍を再開した。




