【第六部】第九十一章 上空からの偵察
――上空――
(少し高度を取りすぎてるか……。これでは逆に疑われ――いや、人間達がどこまで接近しているかわからない。念には念をだ)
上空、八咫は黒翼をはためかせ東に向かい飛んでいた。高過ぎて地上の木々が豆粒より小さく映る。
谷間を川が流れ、その両側に高い崖がそびえている。崖上からの監視を切るにはやはりかなりの高度が必要だ。おかげで、谷間の地面はほとんどわからない。
自分のまわりには他に飛翔体はいない。空は八咫の独壇場だった。
(このまま後城に帰り、母さん達を助けに行きたいくらいだ……。黒夜達を置いていけるはずもないが)
ふと浮かんだ思考を切るように頭を振る。救出するにも馬頭の排除は絶対だ。その好機はもうすぐ訪れるはずなのだ。
(人間共が待ち伏せするとしたら、進軍路――川沿いであるのは間違いない。溪谷を抜けた先の平地に布陣という線も考えられなくもないが、人間共の戦力にはもうほとんど余裕が無いとも聞く。なら、馬頭の得意な平地でなく、この溪谷で奇襲をかけるだろう。俺ならそうする。めぼしい場所は――)
上空から遠くの地上に目をこらす。自分達の進軍路の川沿いの向こうには、遠目にもわかる程の大きな滝があった。
滝向こうにはまた川が流れている。その先は出口である平地に続いているはずだ。
(あそこか……。どうする? 実際に行って地形を把握しておくか? いや……危険すぎる。もし人間共に見つかれば、奇襲の失敗を悟り撤退してしまう可能性もある。戻るか……)
今一度遠目に滝壺と付近の崖を注視しできる限りの地形情報を把握すると、八咫は翻り元来た自軍の場所に向け帰って行った。




