【第六部】第八十七章 馬頭軍進軍開始
――空香溪谷・西武――
「野郎共!! 今日中に谷を抜けるぞ!! ちんたらせずにさっさと進みやがれ!!」
馬頭の大声が響き渡る。それは列の先頭にいた烏天狗達にも伝えられた。
「はいはい。――ったく、覚えとけよ」
「黒磨」
「わかってるわかってる。じゃあ、馬頭様のご指示通り、先に進むとするか」
ぼやく黒磨だが、昨日までとは異なりその顔は明るい。
この後そう遠くないうちに人間達と戦になるだろうことは、八咫から情報をもたらされた仲間内しか知らない。上手く行けば、馬頭を亡き者に出来るかもしれない千載一遇の好機なのだ。期待しないわけがなかった。
不自然な態度は厳禁で黒磨もそれをわかってはいるが、どうにもおさえられないようだ。
「ずいぶんご機嫌だな、鳥」
「夕べ、久しぶりに新鮮な魚を食えたもんでね」
「安い奴だな。いいからさっさと進め」
「へーへー」
「なんだその態度は!?」
「……黒磨」
「わかりました、さっさと進ませて頂きますよっと」
馬の神獣ににらまれつつも、黒磨は半笑いで歩みだした。その足取りは軽い。八咫達も直ぐ様続く。
(気を付けろ。お前は態度に出すぎる)
(悪かったって。で、この後はどんな流れだ?)
(俺が今から偵察に出る。戦場の視察にな)
(おいおい大丈夫かよ? 人間共に見つかったら即開戦になるだろ?)
(それはそうだが、全く偵察に出ないのも不自然だ。バレないよう十分な高度は取る。――黒悠)
(おう)
(俺が偵察に出てる間、みんなを――弟を頼む。もしもの時は、お前が指揮を取ってくれ。戦いになったら空に逃げろ。遠距離攻撃が来たら予定通り被弾を装い離れた場所に落ちろ。身を隠せ)
(わかった)
(お兄ちゃん……)
(悪いな黒夜。すぐもどってくるから、黒悠の言うことをちゃんと聞くんだぞ?)
(うん……)
仲間内で話終えると、八咫は黒翼をはためかせ空高く舞い上がる。そして、東に向かい飛んで行った。




