【第六部】第七十九章 鍛治②
――富央城・二の丸――
鍛治屋はいくつかあるが、椿は二の丸にある鍛治屋に向かった。単に、自分の行きつけだからだ。
それに、二の丸の鍛治屋は三の丸の所以上に腕の立つ者が多い。より価値あるモノを中枢に近い安全な場所で囲いたいと思うのは、自然の原理だろう。
富央城を奪還してまだ三日だ。清掃や準備に追われ本格稼働には程遠い。
そして、鍛治は侍の生命線。休むわけにはいかない。必然的に、鍛治場復旧と鍛造、手入れが平行して行われている。
ある意味、一番忙しい職場だった。
◆
――二の丸・鍛治場――
「たのもう~~~っ!!」
鍛治場の戸を開け、椿が大声でよばわう。
侍大将の急な登場で、鍛治場内が沸き立った。
「椿様!」
「お疲れ様です!!」
鍛治師は皆、笑顔を向けてくる。だが、椿の後ろに歓迎できない者を見るや、すぐに顔がこわばった。
「親方はいるか?」
「……はい。親方ぁ~~~!!」
弟子の一人が口元に手を当て、部屋の奥に大声でよばわう。しばらくして、奥の戸が開き、一人の偉丈夫が出てきた。
「おぅ! 椿の嬢ちゃんじゃねぇか!! それと――ああ、そういうことか。――お前ら!! 仏頂面下げてねぇで打ち続けねぇか!!」
最後の台詞は弟子達に向けてのものだった。こちらを見ながら手を止めているのではっぱをかけたのだ。弟子達は直ぐに仕事を再開する。
「――ったく。で、椿の嬢ちゃん。今日は何用で?」
半ば答えは知りつつも、親方はあえて椿からの答えを求めた。椿も直球で答える。
「単刀直入に言う。私の新たな弟子――ここにいる琥珀に刀を打ってもらいたい。それと、そこのクリスに薙刀をだ。――できるか?」
『できるか?』と投げかけつつも、椿の物言いには有無を言わせぬ圧がある。それは、親方にも直ぐに伝わった。
――だが、事はそう一筋縄には行かない。




