【第六部】第七十八章 鍛治①
【一方、その頃】
――富央城――
「にゃん、にゃん、にゃにゃ~ん♪」
琥珀はご機嫌に富央城本丸に向け歩みを進める。エーリッヒ、ラルフ、クリスと共に。
民衆からの妖獣嫌悪の視線はいまだ残るが、さほどではない。昨日、狩りの獲物を皆に分けた影響だろう。手を振る者さえいた。
そもそも琥珀は周りの目などあまり気にしていない。
――自分が望む自分でいられるように。
神楽と出会ってから、そう考え行動するのが琥珀にとっての当たり前となっていた。
琥珀はひた進む。より、自分の目指す姿を求めて。
◆
――本丸・椿の屋敷――
「師匠~~~!!」
椿の屋敷の入り口で、口元に手を当て大声で呼ばう。やがて、慌てて椿が屋敷から出てきた。
「聞こえている! 何度も大声を出すな!!」
「にゃはは! 約束通り、鍛治屋に行くにゃ!!」
そう。琥珀は椿と約束していた。琥珀用の刀を打ってくれる鍛治師を探しに行くのだ。椿にはその仲介をしてもらう。
椿は侍大将であり多忙の身だ。あえて時間を作っているのは、琥珀の才能を見込んで、時間を割いてでも価値のある戦力になると見越してのことだ。その意味では、椿は琥珀を最大級に評価していた。
「わかってる、わかってる。――まったく。お前は自分が周りからどう思われているか、自覚は無いのか?」
それは、妖獣憎しの視線があることを気付かせるための椿なりの気遣いだ。だが、当の琥珀にしてみれば、百も承知。
「今は何を言っても仕方無いにゃ。でも、うちはただ、皆を守れるくらい強くなりたい、それだけにゃ。それが間違ってるとは思わないにゃ」
「まったく……。その通りだ。お前は気持ちいい程まっすぐだな。――だが、覚えておけ? 皆が、お前程強いわけではない」
椿としては、新しく出来た弟子に対する精一杯の忠告だ。これ以上は、自分で学ぶしかないし、琥珀の態度は間違ってはいない。そう思うからこその、椿なりの気遣いだった。
「琥珀は真っ直ぐだからね、うらやましい程に」
「だな。妖獣とかは関係ねぇ。弱い奴には眩しすぎるってやつだ」
エーリッヒ、ラルフも自分達なりにフォローする。世の中を良くも悪くも知る二人は、椿の言うことがよくわかる。世の中は綺麗事だけでは成り立たない。
「ツバキ。私も自分用の薙刀が欲しい。どうも、リーチが少し合わない」
こちらは、自分の欲求を直球で伝えるクリス。その心情は琥珀に近い。
椿、エーリッヒ、ラルフは苦笑いしつつ、仕方無いなと言うように、二人の要望に向き合う。
「わかったわかった。行くぞ? だが、もし断られても怒るなよ? お前達も知る通り、今は戦時だ。ピリピリしてるのは鍛治師も同じだ」
そう言って、椿は皆を引き連れ、鍛治場へと向かった。




