【第六部】第七十七章 レインの力
さしもの法明も、<千里眼>の力には驚きを隠せなかった。
「まったく……妖狐というのはここまでか。いやはや、絶対に敵には回したくないな」
お堅い法明からそんな軽口すら出る程だ。圧倒的な力の前には、驚きを通り越して呆れてしまうものなのだろう。
「その力、頼りにしている。<守護結界>内でぼやけて視える以外に、何か使用制限はあるのか?」
「今のところ、他には特に無いな」
「それはまた……。ずっと起きていて敵の動きを見張っていて欲しいくらいだ」
「あんたが言うと洒落にならないな……」
法明が声を上げて笑う。珍しいのだろう。周りの者達が何事!? と驚きをもってこちらを見ている。法明が少し気まずげに咳払いする。
「……ん、んん! ――今は敵との距離は遠く、暗部からの<護符通信>での報告が頼りだが、戦闘ともなれば全体を俯瞰する目が必要となる。お前達が頼りだ」
「わかってる。魔素さえ乱されなきゃ力になれるだろう」
「期待している」
話を切り上げ、神楽は稲姫を連れて皆の元に戻った。
◆
「そう言えば、レインさん。狩りの時、姫様の結界の中で飛んでましたよね? 魔素を乱されながらよくできましたね?」
「……結界内でも使えるよう、魔法をチューニングした。私みたいな魔術師は、魔法が使えなかったら話にならないから」
「お手伝いしたでありんすよ」
どうやら、神楽達が富央城天守閣への奇襲に向かっている間、レインは魔法に手を加えていたようだ。稲姫は、レインの周囲の魔素を調整してお手伝いしたとのこと。
「……魔素が乱れていようが、そこにあるのは確か。なら、その動きを“制御”するプロセスを付け加えればいい」
「簡単に言いますが、それをできる人は限られてると思いますよ……?」
神楽だって、元エクスプローラー養成学校生だ。レインの言うことがいかに難しいことか、話を聞くだけでわかる。
体系化された魔法は、あくまで一般的な環境を元に設計されている。魔素が絶え間なく乱れている<守護結界>内など、例外中の例外だ。
「……稲姫ちゃんに、色んな魔素の流れを作ってもらった。それらをどうやって制御下に置くか。そういう魔法を考案して、既存の魔法に付け加えた」
「それ、もう新種魔法として登録できるんじゃないですか……?」
「……発動プロセスを複雑化する程、適正者は減っていく。この魔法は、私が私のためにチューニングしたものだから、汎用性は下がってる」
「なるほど……。流石はレインさんですね。養成学校でもそんなことできる人、全然いませんでしたよ」
「……神楽は稲姫ちゃんや皆の力を使えてて、そっちの方がよっぽどスゴい。――それに、ズルい」
「まぁ、俺の力は借り物ですけどね。――ズルいって……まぁ、ズルいか」
神楽とレインが笑い合う。見ていてたまらなくなったのか、青姫と稲姫が割り込んできた。
「やはりレインは危険じゃ……!」
「ぬ、主様! わっちも協力したでありんすよ!?」
そんなこんなで、神楽達のにぎやかな行軍は進む。西に向かってひた進む。




