【第一部】第三十五章 “縁結び”
――神盟旅団本部――
団長に連れられ、神楽、稲姫、琥珀は本部内敷地を移動する。向かう先は離れたところにある<お堂>だった。
「これはこれは団長殿。此度はどの様なご用向きですかな?」
お堂に近づくと神主さんから声をかけられた。
「うむ。急に来てすまない。この神楽と稲姫殿の“縁結び”をお願いできるか?」
名を呼ばれ、神楽と稲姫が前に出る。
「おお! それはおめでたいことでございます。――では、神楽殿、稲姫殿。こちらに……」
神主に案内され、お堂の中に入る。団長と琥珀も入ってきた。
「わぁ……」
お堂の中には、ある人間の男と、稲姫の様に人化した神獣の女性が手を取り合い、微笑みながら見つめ合う像が祀られていた。それを初めて見る稲姫からしても“人と神の絆”を思わせる素晴らしい造りだった。
「この像は、我らが一族の祖先と、縁を結ばれたお方を象ったものでございます」
そう言いつつ神主は、儀式の準備を進める。
「お二人とも、この輪の中に入り、手を繋いでください」
像が祀られた場所の前には、円形に縄が敷かれていた。その中に神楽と稲姫が入り、対面でお互いに手を繋ぐ。
それを見届けると神主は、そばに置いていた麻袋の口を開き、中に入っている灰色の粉を輪の外にまいていった。
団長と琥珀は少し離れたところで見守っていた。神主は灰色の粉をまきおえると、大麻を振りながら祝詞を唱え始める。――神楽と稲姫は目をつむった。
◆
「――――――」
神楽と稲姫には祝詞の言葉までは理解できなかったが、祝詞が進むにつれ、二人を取り囲むようにまかれた粉が光を放つ。
「綺麗……」
「ほう……」
琥珀が、そして団長が、思わずといったように感嘆から言葉をもらす。
それに気付き、神楽と稲姫が目を開けると――
黄金色に輝く粉が舞い上がり、辺りをキラキラと照らしていた。
「――――はっ!」
神主は祝詞を唱え終えると、大麻を大きく振りぬく。すると――
黄金色の光が一際強く輝き、霧散した。
「お見事でございました。これほど見事な“縁”を見るのは、私も初めてですよ」
「これは嫉妬しちゃうにゃぁ」
「うむ、見事だ。まさか、これ程とはな……」
神主が、琥珀が、団長が、三者三様に神楽と稲姫を褒め称えながら近づいてくる。
稲姫のしっぽがご機嫌に振れている。
「わっちと神楽なら当然でありんす!」
「はは……」
――腰に手を当ててドヤ顔を決める稲姫と、照れくさそうにする神楽を祝福するように、黄金色の光がはらはらと舞い落ちるのだった。




