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神の盟友  作者: 八重桜インコ愛好家
第六部 “和国・北洲の戦い”編②
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【第六部】第七十一章 出立前日⑮ しっぽ祝い(4本目)

――富央城・三の丸・屋敷――



「では! 稲姫のしっぽ4本目を祝して! ――かんぱぁあ~いっ!!♪」

「「「かんぱぁああ~いっ!!」」」


 屋敷で豪勢な料理の並んだ大きなちゃぶ台を皆で囲む。もともとは、明日戦に出立するのでその景気付けの夕食会のつもりだったが、稲姫のしっぽが増えるというサプライズがあったのでそっちに切り替えた。でも、やることに変わりはない。


 留守番をしてくれていた胡桃――ももの先輩――も呼んだ。天井裏に潜んでいたが、まんざらでもなさそうに――むしろ、期待していたかのような面持ちで快諾された。


 皆で料理を食べ進める。新鮮な肉や野菜をラルフシェフが豪勢な逸品の数々に仕上げてくれたのだ。おいしくないはずがない。


「ラルフさんはこの道で食っていけると思いますよ?」

「そうだね」

「……同感」

「おいおい。――でも、料理ギルドもいいかもな」


 冗談を交え、皆で笑い合う。


「そう言えば稲姫ちゃん。しっぽが増えて新しい術も増えたにゃ?」

「わらわもそれが聞きたかった」


 琥珀と青姫が興味津々に稲姫につめよる。だが、稲姫は少し戸惑っていた。その気持ちは、<神託法>で同じ術を会得した神楽にもよくわかった。


「そ、それが……ちょっと変な感じがして……」

「変って、どんにゃ?」

「う~ん……なんか、目が増えたような……」

「我が君。何かわかるかえ?」


 勘のいい青姫が神楽に振り向きたずねてくる。皆が神楽に注目した。だが、他人の能力を借りている身としては、本人が名言しないのに勝手にしゃべるのははばかられた。


「いや、なんと言うか、あれだな、稲姫……」

「そうでありんすね……」

「いや、全然わからないから」


 クリスから冷静なツッコミが入る。うむむと悩む稲姫にエーリッヒが助け船を出す。


「まぁまぁ。言いにくいことだってあると思うよ? 稲姫のこの様子だと、まだよくわかってないんじゃないかな? 無理に聞き出すのはよくないよ」

「だな! 今は飯だ飯!!」

「……ラルフはそればっかり」


 エーリッヒ、ラルフ、レインが上手く誘導してくれた。食卓を笑い声が満たす。琥珀達も気にはなるだろうが、それ以上の追求はやめてくれた。


「主様……」

「ん? ああ、俺もまだよくわからないな。ゆっくり調べればいいさ」

「そうでありんすね……」


 秘密を共有する相手がいるというのは、時に心強い。抱え込まず、二人で話し合えばいい。


 稲姫も気が楽になったのか、料理を美味しそうに食べ進めた。



「こうやって! 『ズバーン!』って!! いちころにゃ!!」

「見ててはらはらしたが、どうやら琥珀は刀が合っているようじゃ。椿には感謝じゃな」

「へ~。見たかったな」


 今日の琥珀の大活躍の話になる。椿から習った剣術を早速狩りに活用したようだ。


 身振り手振りで刀を振ってみせる琥珀。一昨日の消沈具合が嘘のように明るい。神楽達仲間としては嬉しい限りだ。


――椿の懸念するように、開いてはいけない扉を開いてしまった感はあるが、強くなる分にはいいだろう。きっと、たぶん……。


「明日、師匠と一緒に刀鍛治のところに行くにゃ! うちの刀を作ってもらうにゃ!!」

「あまり期待するでないぞ? 椿も言っておったじゃろ? ここでは妖獣は嫌われ者じゃ。断られるかもしれぬぞ?」


 青姫が水を差すように言うが、それは琥珀が傷付かないようにおもんぱかってのことだ。


 明日、神楽達は西に向け出立する。一緒にいてあげられないからこその優しさだ。


 だが、言われた琥珀は全然気にしていなさそうだ。ニコニコ笑顔で骨付き肉にかじりついている。


「まったく……」とまんざらでもないように、青姫は琥珀の口元についた汚れを布でふきとってあげていた。



「く、胡桃お姉ちゃん!? くすぐったいでござるよ!!」

「狩りはどうだった?」

「せ、拙者は見張りでござるから、活躍してないでござるよ」

「お役目きちんと果たせたんだ。えらいえらい」


 胡桃は、わかりやすい程、もう全力でねねを可愛がっていた。こちょこちょしたり、食べやすいように料理を小さく切って『あ~ん』していたり。ねねも嬉しそうにされるがままでいる。


「胡桃――さんは、ねねの先輩なんですよね?」

「うん、そう。さん付けしなくていいよ。私もしないし」


 歳は神楽の方が上だが、胡桃はフランクに接してくる。神楽としては、一応胡桃がねねの先輩なのでねねを立てる意味で敬語を使っていたが、不要と言われ、その通りにする。


「じゃあ、胡桃。ねねは隊でどういう立ち位置なんだ?」

「どういうって?」

「いや、うちに張り込みの見張りって言うか――ぶっちゃけ居候(いそうろう)みたいになってるから、仕事になってるのかなって」

「は、はっきり言い過ぎでござるよ、殿ぉ!?」


 ねねがぽかぽかお腹を殴ってくるが全然痛くない。神楽はねねの頭をなでつつ、空いている方の手で箸を進める。


――鹿肉がやわらかくてうまい!!


「ねねは可愛い。可愛は正義」

「……わかる」


 胡桃とレインがしばし見つめ合い、やがて意気投合するようにガシッと握手を交わす。


(そういうことを聞きたかったわけでもないんだけどな……。ま、いっか)


 水を差すのもなと、神楽もこの話はこれで切り上げる。



 賑やかな晩餐で、その後も大いに盛り上がった。


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