【第六部】第六十九章 出立前日⑬ 狩り④
――富央城外・南の森――
「ちょ!! ――ぇ!? なに!? なんでしっぽが増えてるの!?」
「稲姫は魔素の扱いに長けた妖狐でな。魔素を取り込んで成長すると、しっぽが増えるらしいんだ」
「ほぇえええ~……」
ほうけるクリスとねねに説明する神楽。ねねが新しく生えたしっぽをつんつんすると、稲姫が過敏に反応する。
「ふにゃあ!?」
「……こら、メッ」
「ご、ごめんなさいでござるよ」
レインにたしなめられ素直に謝るねね。クリスはボーッとそれを見ていたが、興味があるのか、さわりたそうだ。もじもじとしている。
「稲姫。クリスもさわりたいってさ」
「わ、私はそんなこと……!」
「少しだけなら……今、敏感だから優しくお願いしんす……」
稲姫はクテッとしている。体力を消耗しているのだろう。そして、クリス。口では否定しながらもやっぱりさわりたかったのだろう。近付き、稲姫のしっぽをおっかなビックリさわる。
「じゃ、じゃあ、お言葉にあまえて……」
「……ズルい。私も」
「ふにゃあ!?」
もふもふもふもふ……。クリスとレインが新しく生えた稲姫のしっぽをもふもふし続ける。便乗してねねも参加している。
「や、やわらかくて気持ちいい……」
「……最、高」
「ほぇええ……」
「ふにゃ……」
皆、幸せそうだ。――稲姫はくすぐったそうだったが。だが、いつまでもこうしてはいられない。
神楽は周囲を見回して四人に声をかける。
「今日はお祝いだ。稲姫に精のつくもんを食べさせないとな。さ、みんな、ここは外で危ないから、続きは帰ってからな。――ぅん?」
ふと、神楽は何かの気配を感じて振り返る。何かの視線を感じたのだ。
だが、特に何も見当たらない。
(野生動物か……? こちらを警戒して見ていたのかもな。勘づかれたことに気付いて逃げたか?)
「あまり長く止まるのは危険だな。もう結構な量あるし、帰ろうか。帰りは山菜とか、食べれるものはつんでいこう。――ねね、頼むぞ?」
「拙者におまかせでござるよ!!」
狩りを終え、城に戻り始める五人。
――神楽達を遠くから監視していた狸は、すぐさま南方へと走り去った。




