【第六部】第六十八章 出立前日⑫ 狩り③ 祝・4本目
――富央城外・南の森――
風属性の上級魔法<飛行>。レインは会議の場での発言通り、それを習得して使いこなしていた。
ふわふわと浮かびながら、レインは空飛ぶ野鳥の一羽に杖の先を向ける。
「……<アイスニードル>」
レインが無詠唱で魔法を放つ。氷の針が杖の前にいくつも現れ、まっすぐ野鳥に殺到した。
まもなくして見事狙い通り当たり、野鳥は地に墜ちていく。それを宙に浮かんだままスーッと先回りし、真下近くに行くとレインはさらに二つ魔法を発動させる。
「……<フリーズ>、<エアーベッド>」
すると、パキンと小気味よい音を立てて野鳥が氷に閉じ込められ、それが音もなく見えない何かに受け止められる。
レインがスーッと浮かびながらこちらに移動してくると、追随するように氷漬けされた野鳥も移動してきた。
そしてドヤ顔をキメるレイン。腰に両手を当ててふんぞり返っている。
「ス、スゲェ!!」
「やるわね……」
神楽は素直に、クリスは少し悔しそうにレインを褒め称える。拍手は忘れない。
「さすがレインさん。最後の魔法は知りませんが、どういう魔法なんですか?」
「……<エアーベッド>。私のオリジナル。空気のベッド。何かを乗せて持ち運ぶのに便利」
「おお!! オリジナルでしたか! 風属性ですよね? 見たところ。得意属性でもないのにスゴイ」
「……頑張った」
テレテレと顔を赤くして頬をかくレイン。対抗心を燃やしてか、クリスが神楽の袖をつかむ。
「カグラ。私だって爆発――」
「殿ぉ!? 大変でござるよぉ!?」
クリスが何か言いかけたが、背後からの大声に皆、振り向く。荷車の番として、ねねと稲姫が背後の警戒に当たっているはずだ。神楽はすぐさま跳躍して向かう。
「どうした!?」
「い、稲姫お姉ちゃんが! 稲姫お姉ちゃんがぁ!?」
「ぅ、ぅう~~~……っ!!」
「ちょ!? 大丈夫なの!?」
「……稲姫ちゃん!!」
「稲姫!!」
見ると、稲姫が地面にうずくまっていた。ねねはどうしてよいかわからないのだろう、稲姫の周りを涙目でわたわたとしていた。
焦った三人がかけつける。
「稲姫!! 具合、悪いのか!?」
「ぬ、主様…………き、きちゃう!!」
「へ……? ま、まさか……!?」
「く、くるって何!?」
「……稲姫ちゃん、がんばって!!」
まさかのアレだった。過去一度その場に居合わせたことがあるレインは察したようだ。稲姫の背をなでてあげている。
稲姫は隣で跪く神楽のむなもとにヒシッとしがみつく。顔はふせたままだ。息が荒い。
神楽が抱き寄せて頭を優しくなでていると、ついにその時が訪れた。
「――ふにゃあ!!」
「ぬぉおおお!?」
「な、なに!?」
――ぽんっ!!
小気味よい音を立て、稲姫のしっぽが一本増える。
あぜんとした顔のねねとクリス。
「よく頑張ったな、稲姫!!」
「……稲姫ちゃん、エラい!!」
「えへへ……♪」
どこか照れくさそうな稲姫。
――稲姫のしっぽが四本になる瞬間の出来事だった。




